探査機の速度を変更したり、姿勢をかえたりするとき、ガスを噴射する「スラスター」という装置が使われます。1977年の打ち上げからすでに47年が経過したボイジャー1号は現在、恒星間空間を航行中ですが、アンテナを地球に向けるために、スラスターを使って姿勢を制御しています。
2機のボイジャー探査機には、姿勢制御用のスラスターが2セットと、軌道修正用のスラスターが1セット、計3セットのスラスターが搭載されています。ボイジャー1号が現在使用しているスラスター内部の燃料チューブが詰まってきたため、2024年8月にかけて他のスラスターのセットに切り替える作業が行われました。
避けられないスラスターのチューブの詰まり
スラスターの燃料チューブは、年を経るとともに二酸化ケイ素で詰まっていきます。これは、探査機の燃料タンク内のゴム製の膜の経年劣化によって発生するため避けられません。チューブが詰まると、スラスターの推力が低下します。
ボイジャー1号では2002年、それまで使用していた姿勢制御用のスラスターのセットのチューブが詰まってきていることが判明し、もう一つの姿勢制御用のスラスターのセットに切り替えられました。2018年には、そのスラスターのセットにも詰まりの兆候がみられたため、それ以降は軌道修正用のスラスターを使って姿勢制御が行われてきました。軌道修正用のスラスターが使用されたのは、ボイジャー1号が1980年11月に土星を通過して以来37年ぶりのことでした。
NASA(アメリカ航空宇宙局)によれば、現在、その軌道修正用のスラスターのチューブ(燃料チューブとは別のチューブ)が、2018年に切り替える前のスラスターよりも詰まっており、もともと直径0.25mmだったチューブの開口部が、0.035mmまで狭くなってしまっているとのことです。そのため、スラスターを切り替える必要が生じたのです。
スラスターを温めるため電力のやりくりも必要だった
ただ、探査機が老朽化している関係で、スラスタの切り替えも簡単ではありませんでした。ボイジャー1号は、プルトニウム238の崩壊熱から電力を生成しています。供給される電力は年々下がっており、電力の節約のために重要でないシステムは、一部のヒーターを含めて電源が切られています。姿勢制御用のスラスターも冷えており、その状態で電源を入れると損傷して使用できなくなる可能性がありました。
運用チームは、電源を切っているヒーターをオンにしてスラスターを温めてから、スラスターの電源を入れるのが最善だと判断しました。ただ電力供給が少ないため、スラスターを温めるヒーターをオンにするには、何か他のものの電源を切る必要がありました。
動作中の科学機器については、一度オフにすると再び電源が入らない危険性がありました。検討の末、運用チームは探査機のメインヒーターの一つを最大1時間オフにすることで、スラスターを温めるヒーターをオンにするための電力が得られると判断し実行に移しました。対象のスラスターが再び機能し、ボイジャー1号の姿勢制御がうまくいったことが8月27日に確認されたとのことです。
(参考記事)ボイジャー1号、2号の現在地は? 今どこにいるのか
Image Credit: Caltech/NASA-JPL
(参照)JPL