長周期彗星を待ちぶせするESAの新彗星探査機コメット・インターセプターが製造段階へ | アストロピクス

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長周期彗星を待ちぶせするESAの新彗星探査機コメット・インターセプターが製造段階へ

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)は2022年6月8日、長周期彗星の探査を目指す彗星探査機「コメット・インターセプター」の製造が承認されたと発表しました。探査機の主契約者の選定ののち製造がスタートします。コメット・インターセプターは2029年に太陽系外惑星観測衛星「アリエル」とともに2029年に打ち上げられる予定で、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)も協力しています。

彗星を観測する探査機は、これまでにもNASA(アメリカ航空宇宙局)やESA、日本などが打ち上げたことがあります。ただいずれも短周期彗星をターゲットとしたもので、長周期彗星に向かう探査機はコメット・インターセプターが初めてです。

短周期彗星の故郷は、海王星以遠にあるエッジワース・カイパーベルトです。短周期彗星はその名の通り公転周期が短いので、頻繁に太陽系の内側へやってきます。たとえばハレー彗星は76年周期、ESAのロゼッタ探査機が観測したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は6.5年周期で太陽に近づきます。

一方、長周期彗星は、太陽から数万天文単位(1天文単位は太陽〜地球間の平均距離に相当する約1億5000万km)のところを球殻状に取り巻く「オールトの雲」からやってくると考えられています。長周期彗星の中には、放物線や双曲線の軌道をもつものがあり、そういった彗星は太陽に近づいた後は2度と戻ってくることはありません。また2017年に太陽に接近したオウムアムアのように、別の恒星系からやってくる天体もあります。

何度も太陽に近づいたことのある短周期彗星の表面は、太陽からの熱によって変質しています。一方、初めて太陽に接近する長周期彗星の表面には、太陽系が誕生したころの始原的な物質が残っています。そのため長周期彗星を観測することで太陽系の形成にも迫ることができます。

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L2点で待機し、彗星を発見後にターゲットに向かう

これまで探査機が訪れたことのある短周期彗星は、以前から発見されていて軌道もわかっているものでした。一方でコメット・インターセプターがねらうのは、まだ発見されていない彗星です。

望遠鏡技術の進歩によって、最近では「新彗星」は太陽に最接近する1年以上前に発見されるようになっています。とはいえ発見してから探査機を計画・製造していたのではとても間に合いません。そこでコメット・インターセプターでは、太陽-地球系の第2ラグランジュ点(L2点)に探査機を待機させておき、太陽に接近中のターゲットとなる長周期彗星が発見されたら、L2点から彗星へ向かうことになっています。いわばまだ見ぬ彗星を待ちぶせしようというわけです。

なお太陽-地球系のL2点は、太陽から見て地球の反対側150万kmの距離のところにあります。同時に打ち上げられるアリエルもL2点から観測を行います。また2021年末に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡もL2点に置かれています。

コメット・インターセプターは主探査機のほか2機の小型探査機から構成されています。小型探査機のうち1機をJAXAが開発します。ターゲットの彗星が決まると3機は一体となって彗星へ向かい、彗星にフライバイする1〜2日前に分離、それぞれが彗星周辺の複数の地点から同時に観測を行い、彗星の核やガス、チリ、プラズマ環境などを調査します。

Image Credit: ESA

(参照)ESA(1)(2)