先日、小型月着陸実証機SLIMが、月面での極寒の夜を乗り越え復活したことが話題になりました。地球と違い、月には大気が(ほぼ)ありません。また月面では昼と夜がそれぞれ約14日間ずつ続きます。そのため昼の温度は高く、夜の温度は低くなり、昼夜の温度差がとても大きくなります。
月面の温度について、たとえばJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「ファン!ファン!JAXA!」のウェブページには、「昼は110℃、夜は-170℃」と書いてあります。アストロピクスでもこれまで、SLIM関連の記事ではこの情報をもとに月の夜の温度をマイナス170℃としてきました。
では、それはいったいどうやって測ったのでしょうか。気になったので調べてみました。
まず、NASA(アメリカ航空宇宙局)関係のウェブサイトを調べてみたところ、NSSDC(アメリカ宇宙科学データセンター)の「Moon Fact Sheet」で、月の赤道付近での1日の温度範囲は95Kから390Kだと書かれていました。これは摂氏でいうとマイナス178.15℃から116.85℃くらいの温度になります。
でもそこには、どうやって測ったのかは書かれていません。
NASAの月探査機が月面全体の温度を観測
もう少し検索してみると、NASA(アメリカ航空宇宙局)の月探査機ルナー・リコネッサンス・オービターに搭載されている「月放射測定実験(DLRE:Diviner Lunar Radiometer Experiment)」という観測機器で、月面全体の温度を計測していたことがわかりました。
DLREのウェブページを見ると、月の赤道での平均の温度は95K(マイナス178.15℃)から387〜397K(113.85〜123.85℃)となっています。どうやらNSSDCのMoon Fact Sheetの値は、DLREによる計測値をもとにしているようです。なお同ページによると95Kは日の出直前の温度とのこと。
こちらはDLREで観測された月面の表面温度です。2009年7月5日から2015年4月1日までの約5年半の観測データをもとに作られました。高温(低温)部分は太陽光が射す方向の変化にともない移っていくので、画像の温度分布はとある時間帯のものになっています。
こちらは月の自転にともなう月面の温度の移り変わりを示したものです。
日中の温度は、月面のアルベド(明るさ)によって異なり、明るい(白っぽい)ところより暗い(黒っぽい)ところの方が温度が高くなります。画像をよくみると、暗い「海」の部分の温度がやや高くなっているのがわかります。一方で夜間は、大きな岩石のような密度の高い物質は温かい状態が保たれるので温度がやや高くなります。
DLREによる観測について、詳しく知りたい方は論文をご覧ください。「The global surface temperatures of the Moon as measured by the Diviner Lunar Radiometer Experiment」
(参照)LRO DIVINER Lunar Radiometer Experiment、NSSDC Moon Fact Sheet