
20年以上前に使用不能に陥っていた、ボイジャー1号のスラスターの復旧に成功したとNASA(アメリカ航空宇宙局)が公表しました。
ロール運動用の主スラスターは20年前に使用不能に
1977年に打ち上げられたボイジャー探査機は現在、星間空間を時速5万6000kmで飛行しています。そのボイジャー探査機はアンテナを地球に向けるためガスを噴射するスラスターという装置を使用しています。
ボイジャー探査機には上下運動、左右運動のためのスラスターセットのほか、ロール運動のためのスラスターセットが搭載されています。ロール運動は、地球から見てアンテナがレコードのように回転する運動で、スラスターは探査機がガイド星をとらえて姿勢を決めるために使われます。
ボイジャーのスラスターは主セットと予備セットが搭載されています。燃料タンク内のゴム製の膜の劣化により、スラスターの燃料チューブは年を経るとともに詰まっていきます。スラスターの詰まりに対応するため、運用チームは主スラスター、予備スラスターとともに軌道変更用のスラスターのセットを切り替えて使っています。
しかしボイジャー1号では、2004年に小型の内部ヒーターの電源が失われて以来、ロール運動用の主スラスターが動作しなくなっていました。当時、故障したヒーターは修理不能だと判断され、ロール運動には予備スラスターのみを使うことになったのです。
復旧作業中に小規模な爆発の可能性も
それから20年が経過し、予備スラスターの詰まりが問題になってきました。そこで運用チームが2004年のヒーターの故障を再調査したところ、ヒーターの回路に何らかの障害が生じてスイッチが誤った位置に切り替わった可能性があることがわかりました。スイッチを元の位置に戻せればヒーターが再び機能し、ロール運動用の主スラスターも再起動して使用できるようになる可能性が出てきたのです。
ただその作業には注意が必要でした。復旧には休止状態のロールスラスターを起動し、ヒーターを修理して再起動させる必要がありましたが、その際、探査機のスタートラッカーがガイド星から大きく外れていると、休止状態のロールスラスターが自動的に作動するようプログラムされていました。そしてもし作動時にヒーターの電源が入っていないと、小規模ながら爆発が発生する可能性があったのです。運用チームはスタートラッカーをできる限り正確にガイド星へ向ける必要がありました。
運用チームは2025年3月下旬ににコマンドを送信。片道23時間以上かかるボイジャー1号との通信の結果、ヒーターの温度が20分以内に上昇したことが確認され復旧に成功しました。
なお2025年5月4日から2026年2月まで、ボイジャー探査機にコマンドを送信できる唯一のアンテナである、オーストラリアのキャンベラにあるDSS-43がアップグレードのためほぼ使用できなくなります。8月と12月に短期間、稼働する予定ですが、8月にはボイジャー1号で現在使用されているスラスターが完全に詰まっている可能性があったことから、今回の措置はアンテナの休止前に実施されました。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
(参考)
ボイジャー1号、2号の現在地は? 今どこにいるのか
2機のボイジャー探査機の寿命を伸ばす措置を実施
ボイジャー1号、姿勢制御のためのスラスターを再び切り替えて延命へ
(参照)NASA