火星探査車パーサヴィアランスに搭載されている小型ヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」の飛行を4月8日以降に行うことを目標にしているとNASA(アメリカ航空宇宙局)が発表しました。インジェニュイティは、地球以外の天体での初の動力飛行を目指した技術実証機です。
インジェニュイティは、2021年2月18日に火星へ着陸したパーサヴィアランスの車体下部に取り付けられています。3月21日に保護カバーが取り外され、パーサヴィアランスは現在、「飛行場(インジェニュイティが離着陸する場所)」へ移動しています。
火星の空中を制御された方法で飛行することは、地球での飛行よりはるかに困難です。火星の地表付近の大気圧は地球の100分の1ほどしかありません。火星の地表では、昼間は地球の半分程度の太陽エネルギーしか受け取れず、夜間の気温はマイナス90℃まで下がります。パーサヴィアランスに搭載するため、小型である必要があります。また火星の環境で飛行するには軽量でなければいけません。極寒の火星の夜を乗り切るため、内部のヒータを動かすための十分なエネルギーが必要になります。
インジェニュイティは、折りたたまれた状態でパーサヴィアランスに搭載されています。そのため「飛行場」に到着後、インジェニュイティを展開して火星表面に下ろしてやる必要があります。展開のプロセスは不可逆的で、いったん始めたら後戻りはできないとのことです。ヘリコプターの展開には約6火星日(地球時間で6日プラス4時間)かかります。途中、パーサヴィアランスのロボットーアーム先端に取り付けられた装置シャーロックのカメラ(ワトソン)での撮影も行われる予定です。
ヘリコプターの展開後、性能確認などが行われたのちに飛行試験が実施されることになります。飛行試験でインジェニュイティは、ローターを2537rpmまで回転させ、最終のセルフチェックで問題がなければ離陸します。1秒につき約1mの割合で上昇した後、インジェニュイティは約3mの高さで最大30秒ホバリングします。その後下降して着陸します。
飛行の数時間後には、最初の工学的なデータが送られてくる予定になっています。パーサヴィアランスのカメラで撮影した画像や映像も送られてくる可能性もあるとのことです。それらのデータから、飛行が成功したかどうかが判断できるとみられています。
翌火星日には飛行中の全ての工学データのほか、ヘリコプターのカメラで撮影された低解像度モノクロ画像が、さらに翌々火星日には高解像度カラー画像も届けられるとのこと。それらのデータをもとに、次の飛行試験をいつどのように行うかが決定されます。
なおインジェニュイティには、地球上で初の動力飛行を行ったライト兄弟のフライヤー号の翼を覆っていた素材のごく一部が搭載されています。ライト兄弟の初飛行は1903年12月17日。それからおよそ120年の時を経て、インジェニュイティは火星での初の動力飛行に挑みます。