土星の衛星エンケラドスの氷の地殻の下には全球的な海があると考えられています。その海に、地球生命の必須元素の1つであるリンが高濃度で存在していることが明らかになりました。東京工業大学や海洋開発研究機構、ドイツのベルリン自由大学などの国際研究チームによる研究です。
直径505kmのエンケラドスの南極付近では、地下の海からの水蒸気や氷の粒子などが噴出する間欠泉(プルーム)が存在しています。噴き出した氷粒子は、土星のEリングの材料にもなっています。
2004〜17年に土星を周回しながら観測を行ったカッシーニ探査機は、搭載する宇宙塵分析器でエンケラドスのプルームやEリングの粒子のデータを収集しました。研究チームはカッシーニ探査機のデータをもとに数百個の微粒子を解析。その結果、プルームの粒子にリン酸に富む粒子が少量含まれていることを明らかにしました。エンケラドスの海水には地球の海水の数千倍から数万倍の濃度でリン酸が含まれていることもわかりました。
海水と海底の岩石との化学反応でリン酸が濃集
その後、日本の研究チームが、エンケラドスの海水を模擬した水と、海底を構成する岩石に似た炭素質隕石の粉末を用いた反応実験を実施。その結果、リン酸の濃集がエンケラドスの海水と海底の岩石との化学反応にあることがわかりました。アルカリ性かつ高炭酸濃度のエンケラドスのような水環境は、太陽系の外側にある氷天体で一般的なものであることから、リン酸の濃集は土星の他の衛星や、天王星・海王星のの衛星などでも起きていると予想されるとしています。
リンは、DNA(デオキシリボ核酸)や細胞膜、またエネルギーを運ぶ分子で「エネルギー通貨」とも呼ばれるATP(アデノシン三リン酸)の材料にもなる、地球生命にとってなくてはならない元素です。一方、天然での存在量は低く、リンの濃集は地球生命誕生のカギを握るとも考えられています。研究チームによれば今回の研究は、リン濃集の場を地球外で初めて発見したもので、原始地球での生命誕生の場の特定にもつながる重要な発見であるとのことです。