火星の衛星フォボスは、火星大気から流出した荷電粒子の流れの中を公転していることが明らかになったとする研究が、カリフォルニア大学バークレー校のQuentin Nénon氏らによって発表されました。荷電粒子の多くは酸素、炭素、窒素、アルゴンのイオンで、長年にわたり火星大気から流出し続けてきました。フォボス表面に衝突して、その表層に保存されているイオンもあると予想されています。
フォボスは、火星に2つある小さな衛星のうち、火星の近くを周回する衛星です。地球の月と同じように、常にほぼ同じ面を火星に向けながら公転しています。そのためフォボスの火星側の面は長い間、火星大気から流出した原子や分子を浴び続けてきたことになります。Nénon氏の研究によれば、裏側と比べて20〜100倍も火星からのイオンを浴びていることが示されました。
Nénon氏らは、火星大気を観測するNASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機メイブン(MAVEN)のデータを使って研究を進めました。太陽からくるイオンと火星大気からくるイオンを区別した上で、どれくらいのイオンがフォボス表面に到達し、どのくらいの深さまで入り込むのかを推定しました。その深さは数百ナノメートル以下、髪の毛の250分の1ほどです。
かつて火星は厚い大気に覆われていましたが、現在では地球の1%以下の密度になっています。フォボス表面の物質を分析できれば、火星大気の進化について重要な情報が得られるとNénon氏は見ています。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)では2024年に打ち上げられるMMX(火星衛星探査計画:Martian Moons eXploration)で、フォボスからのサンプルリターンを目指しています。MMXがフォボスの火星側表面に着陸した場合、得られるサンプルによって、フォボス表層の粒子に過去の火星大気のアーカイブを見ることができるだろうとNénon氏は語っています。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
(参照)NASA