2023年4月16日、ニュージーランドのワナカで、気球に搭載された望遠鏡「SuperBIT(Superpressure Balloon-borne Imaging Telescope)」が打ち上げられました。4月20日にはさっそく、SuperBITが撮影した2枚の研究用画像が公開されました。
こちらはSuperBITが撮影したタランチュラ星雲の画像です。タランチュラ星雲は、地球から16万1000光年離れた大マゼラン銀河にある、電離した水素ガスの巨大な星形成領域です。これまでハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡をはじめ、数多くの望遠鏡で観測されてきました。
こちらはSuperBITが撮影した触角銀河(アンテナ銀河)の画像です。からす座の方向、6000万光年の距離にあります。NGC 4038とNGC 4039という2つの銀河が衝突・合体している現場で、SuperBITの画像にも淡く映っている「潮汐の尾」が2本、長く伸びているのが特徴です。触角銀河もハッブル宇宙望遠鏡やアルマ望遠鏡など、さまざまな望遠鏡で観測されてきました。
SuperBITは、重力レンズ効果を利用してダークマター(暗黒物質)について調査するための望遠鏡です。銀河などの天体があると、その質量によってまわりの空間が歪むため、そばを通る光が曲がります。ダークマターを電磁波で観測することはできませんが、質量があるため重力レンズ効果を調べることでその存在を推定できます。
気球に搭載する望遠鏡の利点
この映像は、SuperBITの打ち上げの様子です。Video credit: NASA/Bill Rodman
SuperBITは、NASA(アメリカ航空宇宙局)、イギリスのダラム大学、カナダのトロント大学、アメリカのプリンストン大学により共同で進められています。ニュージーランドから打ち上げられたSuperBITは、風に運ばれて3か月で数回、南半球を周回するとのことです。夜間はずっと空を撮影し、日中は太陽電池パネルで充電を行います。
気球に搭載した望遠鏡には、宇宙望遠鏡と比べて優れている点があります。1つはロケットで打ち上げる宇宙望遠鏡と比べてコストが圧倒的に安価だということです。SuperBITのコストは約410万ポンド(500万米ドル)で、同等の衛星の約1000分の1とのことです。またパラシュートで地表に戻ることができるため、望遠鏡の微調整やアップグレードができることも利点の1つです。
Image Credit: NASA/SuperBIT