ウェッブ望遠鏡がとらえた大マゼラン銀河のタランチュラ星雲 | アストロピクス

ウェッブ望遠鏡がとらえた大マゼラン銀河のタランチュラ星雲

大マゼラン銀河にあるタランチュラ星雲をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた画像が公開されました。タランチュラ星雲は地球から16万1000光年の距離にあり、局所銀河群の中で最大かつ最も明るい星形成領域です。そこには最も高温で大質量の星も存在しています。

冒頭の画像は、ウェッブ望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)でとらえたものです。幅340光年の領域が映し出されています。画像の中心付近に、淡い青色に見える若い大質量星の星団があります。その周囲には、まだ塵に埋もれている赤く見える星が散在しています。それらの星はこれまでにないNIRCamの分解能により検出できたものです。

青い大質量の星団からの放射によって、星雲内に空洞ができています。星雲内の高密度の領域のみが強烈な星風の侵食に耐え、ハッブル宇宙望遠鏡の画像で有名な「創造の柱」のような柱状の構造を形成しています。それらの柱の中には形成中の原始星が含まれています。

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近赤外線分光器(NIRSpec)でとらえた「繭」の中の星

こちらはウェッブ望遠鏡の近赤外線分光器(NIRSpec)が、形成中の非常に若い星をとらえたものです。NIRCamの画像で、青い大質量星の星団の左上に回折スパイク(放射状に伸びる光のすじ)をもつ明るい星がありますが、その上にある小さな泡の部分が映っています。

青で示されている原子状水素が星の領域に見られます。ただ星の周辺部には見られず、「泡」の外側が青くなっています。他の波長の画像を見ると、泡が水素分子(緑)と炭化水素(赤)で満たされていることがわかります。

これは泡が実際には、右下にある大質量の若い星団からの放射に耐えている、高密度の塵とガスの柱の頂上であることを示しています。大質量の若い星団からの星風は、柱の外側では分子をバラバラに分解します。しかし柱の内側では分子のまま維持され、星を包み込む繭(まゆ)を形成しています。

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中間赤外線装置(MIRI)でとらえた低温のガスと塵

こちらはウェッブ望遠鏡の中間赤外線装置(MIRI)で撮影された画像です。より長い赤外線波長でみることで、NIRCamとは異なる姿が見えています。

冒頭のNIRCamの画像の青い大質量星の星団とその上あたりが映っていますが、MIRIの画像では高温の星が見えなくなり、低温のガスと塵が輝いています。画像上端の中央左の明るい部分など、まだ塵に覆われている原始星も見えています。

こちらの画像はNIRCamとMIRIの画像を並べたものです。同じ領域が映っていますが、NIRCamの画像に映る青い大質量星の星団が、MIRIの画像では見えなくなっているのがよくわかります。


天文学者がタランチュラ星雲に注目する理由の1つは、この星雲が宇宙の「コズミックヌーン(cosmic noon)」と呼ばれる時期に観測される星形成領域と似た化学組成をしているからです。コズミックヌーンとは、銀河での星形成が最も活発だった100億年ほど前の時期のことです。

天の川銀河にある星形成領域は、タランチュラ星雲ほど星形成が活発ではなく、化学組成も異なっています。タランチュラ星雲を調べることで、コズミックヌーンのころに宇宙で何か起きていたのかを垣間見ることができるのです。

Image Credit: NASA, ESA, CSA, and STScI

(参照)ESA/WebbWebb Space Telescope