火星にはかつて海があったと考えられています。しかし現在の火星は乾燥しており、大量の水がどうやって失われたのかはよく分かっていません。
アリゾナ大学月惑星研究所博士課程のShane Stone氏らの研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機メイブン(MAVEN)による観測から、火星大気の最上部、高度150kmでの水蒸気の量が、南半球の夏の間に最も多くなることを突き止めました。
火星は約687日で公転しています(1火星年)。火星の公転軌道は、地球と比べてゆがんだ楕円をしているため、火星の南半球の夏の時期に最も太陽に近くなります。その時期は気温が高くなり、砂嵐が発生しやすくなると考えられています。夏期の温暖な気温と砂嵐に伴う強風によって水蒸気(水分子)は大気の最上部に到達します。そこで水分子は酸素と水素に分解され、宇宙空間へ失われていきます。
火星では1火星年に1度、局地的な砂嵐が発生し、10年に1度程度の頻度で全球的な砂嵐が発生します。全球規模の砂嵐が火星を包み込んだ2018年6月、研究チームは通常の20倍の水蒸気を2日間で計測しました。通常であれば1火星年の間に失う水を、その砂嵐の際には45日間で失ったと研究チームでは推定しています。
砂嵐が水蒸気を上空まで持ち上げることは知られていました。ただ大気の最上部まで到達していることは分かっていませんでした。今回の研究により、これまで知られていなかった、火星の環境から水が失われる新たな経路が発見されたことになります。
Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center