降り注ぐ電子が水星表面の「X線オーロラ」を引き起こす ベピコロンボが観測

ベピコロンボと水星のX線オーロラを描いた想像図。Image Credit: Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International (CC BY-SA 4.0) Thibaut Roger/Europlanet
ベピコロンボと水星のX線オーロラを描いた想像図。Image Credit: Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International (CC BY-SA 4.0) Thibaut Roger/Europlanet

日欧共同の水星探査計画ベピコロンボは、地球や金星、水星でフライバイを行いながら水星の周回軌道に入るべく航行を続けています。2021年10月1日に行われた第1回目の水星フライバイの際に得られたデータから、水星表面に降り注ぐ電子がどのようにX線オーロラを引き起こすのかが明らかになりました。X線オーロラは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の水星探査機メッセンジャーによって観測されていました。ただX線オーロラを引き起こすプロセスはこれまでわかっておらず、直接観測もされていませんでした。

スポンサーリンク

水星では表面付近で「オーロラ」が発生する

地球では荷電粒子が大気に衝突してオーロラが発生します。水星には大気がほとんどないため、荷電粒子は水星表面の物質と衝突して蛍光X線を出します。水星でのこのような発光現象は「X線オーロラ」と呼ばれています。X線なので、水星のオーロラを目で見ることはできません。

ベピコロンボは、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)の水星磁気圏探査機「みお」(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)と、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の水星表面探査機(MPO:Mercury Planetary Orbiter)という2機のオービターで水星の観測を行うミッションです。現在ベピコロンボは、「みお」とMPO、そして電気推進モジュール(MTM)が結合した状態で水星に向かっています。

ベピコロンボは1回目の水星フライバイの際、水星表面から200kmまで最接近しました。航行中の「みお」は太陽光シールドに覆われているため、科学観測に大きな制約があります。その中で「みお」は搭載装置の多くを立ち上げて観測を試み磁気圏のプラズマ観測に成功、加速された電子が南半球磁気圏の朝側で惑星表面へ降り込むようすが直接観測されました。

スポンサーリンク

発生のメカニズムは地球と似ている

フライバイ時、ベピコロンボは水星の夜側北半球から接近し、南半球の朝方付近で水星に最接近したのち、南半球の昼側磁気圏を観測して太陽風へと抜けていきました。その際「みお」は、磁気圏の構造を示す境界(磁気圏界面およびバウショック)をとらえることに成功しました。また当時の水星磁気圏は、平均よりも圧縮されてコンパクトな状態であったことが確認されました。

地球では磁気圏尾部においてプラズマが加速して輸送され、大気に降り込んでオーロラが発生します。今回の観測結果は、地球と比べて小さな水星磁気圏においても、地球と非常によく似たメカニズムで電子が加速・輸送され、惑星に降り込んで地表からX線オーロラを生成しうることを示したとのことです。

ベピコロンボは2025年12月に水星の周回軌道に入るまで、地球、金星、水星で合計9回のフライバイを行います。2023年6月には水星での3回目のフライバイ(全9回のうちの6回目)が行われました。ベピコロンボはあと3回、水星でフライバイを行ったのち、2025年12月に水星の周回軌道へ入る予定になっています。

(参照)Europlanet 2024 Research InfrastructureJAXA宇宙科学研究所Max Planck Institute for Solar System Research