この画像には「CG 4」と呼ばれる天体が映っています。CG 4は「彗星状グロビュール(cometary globule)」と呼ばれるタイプの天体です。しし座の方向、約1300光年の距離にあります。CG 4は、まるで手を差し伸べているようにも見えることから、「神の手(God’s Hand)」と呼ばれることもあります。
伸ばした手の先には銀河ESO 257-19(PGC 21338)が映り込んでおり、まるでその銀河をつかもうとしているかのようです。実際には銀河はCG 4よりも1億光年以上遠くにあり、偶然近くにあるように見えているだけです。
頭部と「尾」からなる彗星状グロビュール
グロビュールとは、周囲から孤立した高密度の小さなガスと塵の雲のことです。グロビュールで「尾」のような構造を伴うものは彗星状グロビュールと呼ばれます。彗星に形状が似ていることから名付けられたもので、実際の彗星とは関係ありません。CG 4は、直径1.5光年の塵の多い頭部と、長さ8光年のかすかな長い尾からなります。
CG 4の頭部の内部や外縁部では、電離した水素が赤く輝いてみえています。この光は、高温の大質量星から放射される光によって励起されることで輝きます。
一方で大質量星からの強烈な放射は、グロビュールの頭部を徐々に破壊しています。それでもまだ、CG 4の塵の豊富な雲には、太陽サイズの星をいくつか形成できるほどのガスが含まれています。
彗星状グロビュールの形成に関する2つの説
彗星状グロビュールの多くは、CG 4も含めてガム星雲の中で見つかっています。ガム星雲は、約100万年前に爆発した超新星の残骸だと考えられています。そこにはCG 4の他に少なくとも31個の彗星状グロビュールが存在していることが知られています。
彗星状グロビュールの形成については、2つの説が考えられています。1つは、もともとは環状星雲のような球状の星雲だったものが、近くで起きた超新星爆発によって破壊されて形成されたとするものです。
もう1つは、近くにある高温の大質量星からの恒星風と放射圧の組み合わせによって形成されるとするものです。ガム星雲内の彗星状グロビュールはすべて、星雲の中心とは反対方向に尾が伸びているようにみえます。そこには、ほ座パルサーとほ座超新星残骸があります。ガム星雲内の彗星状グロビュールは、ほ座パルサーからの恒星風と放射圧の影響で形成されたのかもしれません。
(参考記事)ダークエネルギーカメラがとらえた「ほ座超新星残骸」の中心部
「手」の先のクローズアップ
こちらは「手」の先端付近のクローズアップです。右上の画像には銀河ESO 257-19も見えています。また白枠の1と2には主系列星になる前の、進化の初期段階にある「若い星状天体(YSO)」が映っています。YSOにはジェットや原始惑星系円盤などがみられることがあります。
(参考記事)ガスと塵が作り出した「神の手」(ESO(ヨーロッパ南天天文台)の超大型望遠鏡VLTで撮影された「神の手」の先端部分の画像を紹介しています)
画像は南米チリ、セロ・トロロ汎米天文台(CTIO)にあるビクター・M・ブランコ4m望遠鏡に搭載されている「ダークエネルギーカメラ(DECam)」で撮影されました。DECamはもともと、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)の解明に向けた「ダークエネルギーサーベイ」で使われていましたが、サーベイ計画の後はさまざまな観測に利用されています。
Image Credit: CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA; Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), D. de Martin & M. Zamani (NSF’s NOIRLab)
(参照)NOIRLab