太陽程度の質量の星が核融合の燃料を使い果たして年老いると、100〜1000倍のサイズに膨張して「赤色巨星」と呼ばれる状態になります。恒星を周回する惑星が近くにある場合、膨張した星に飲み込まれてしまいます。このようなことは太陽系でも約50億年後の未来に起きるとみられています。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のKishalay De氏らの研究チームは、惑星を飲み込んでいる赤色巨星の証拠をはじめて観察したとの研究を発表しました。そのような現象は、天の川銀河全体で年に数回しか発生しないと推定されていますが、これまで直接とらえられたことはありませんでした。
観測された星は、わし座の方向、地球から約1万2000光年離れたところにある「ZTF SLRN-2020」という星です。この星は、アメリカのパロマー天文台が運用するZTF(Zwicky Transient Facility)によって最初に発見されました。ZTFは、超新星やガンマ線バーストなど急激に明るさが変化する現象をサーベイするための装置です。ZTFによる観測でこの星は急激に明るくなり、約1週間で暗くなり始めました。
De氏は当初、伴星からのガスが白色矮星に流れ込んだ際の新星爆発の結果である可能性があると考えていました。しかしその後の観測から、そうではないことが明らかになりました。
惑星が赤色巨星をかすめた際の塵が観測された
パロマー天文台のヘイル望遠鏡のWIRC(広視野赤外線カメラ)のデータは、塵の存在を示す赤外線でも、星が時間の経過とともに明るくなっていることを示していました。さらにNASA(アメリカ航空宇宙局)のNEOWISE衛星のデータから、可視光の明るさの急上昇をZTFがとらえる9か月前に赤外線で明るくなっていたことが判明しました。これは星の周りに赤外線を放出する塵が形成されたことを示しています。
さまざまな観測結果を突き合わせてまとめた結果、NEOWISEで観測された塵は、恒星の大気へ惑星が落下していくときに生じたものであることがわかりました。星が年老いて膨張し、惑星の公転軌道に近づいていきます。そして惑星が恒星の外層をかすめた際に恒星の高温ガスを引き剥がし、それが宇宙空間へ放出されて冷えて塵が形成されました。さらに、崩壊する惑星の物質が外側へ吹き飛ばされた際にも塵が形成されました。
その後、惑星が星の核へ突入した際、恒星は4倍に膨張して100倍以上も明るくなりました。その明るさの変化がZTFでとらえられたのです。
恒星の質量は太陽の0.8〜1.5倍ほど、飲み込まれた惑星の質量は木星の1〜10倍ほどと推定されています。太陽〜水星間よりも恒星に近いところを惑星は公転していました。