この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したオリオン大星雲です。この画像で赤〜ピンク色の領域は、大質量星からの紫外線によって、星間ガスの主成分である水素が電離している領域(電離領域)です。オリオン大星雲では、この電離領域が星団の外側に大きく広がっています。国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイⅡ」を用いたシミュレーションと観測データにより、星団から弾き出された大質量星がそのような電離領域を作るきっかけとなった可能性が示されました。
独自開発の計算コードでシミュレーション
シミュレーションによる研究で、オリオン大星雲で見られるような大きく広がる電離領域は、星団内での大質量星の運動を取り入れると形成される可能性があることが分かっていました。しかしこれまでのシミュレーションでは、星の軌道を計算する際、計算コストを抑えるために接近した星どうしの間にはたらく重力を弱めて計算しており、星が弾き出される様子をとらえることはできませんでした。
東京大学の藤井通子氏らの研究チームは、星と星間ガスを別に扱うことにより、重力を弱めなくとも高速に計算できる計算コード「ASURA+BRIDGE」を開発しシミュレーションを行いました。そしてシミュレーションで形成された星団と、オリオン大星雲の中心部にある星団とで、星の空間分布や速度分布を比べたところ、星雲内の大質量星の速度分布が、シミュレーションで星団から弾き出された星と同じ分布をしていることがわかりました。これは大質量星が星団の中心部で生まれ、星どうしの重力相互作用によってそこから弾き出されていることを示しています。
星は分子雲(低温・高密度の主に水素分子からなるガス)の中で生まれます。オリオン大星雲では、手前側(地球に向いた側)に電離領域が広がり、奥側には分子雲が残って星形成が続いています。今回のシミュレーションでは、大質量星が分子雲から手前側に飛び出す際に分子雲に穴を開け、手前側に広がる電離領域が作られました。これは、オリオン大星雲のような電離領域の形成に大質量星の運動が重要であることを示しています。
今回の研究で再現されたオリオン大星雲の星団は中規模のものですが、「ASURA+BRIDGE」はオリオン大星雲の100倍の星を含む大質量星団の形成シミュレーションも可能です。今後はより大規模なシミュレーションを行い、大質量星団や銀河の形成過程、その中で大質量星が果たす役割を果たしていきくとが期待されているとのことです。