天の川銀河の中心には、太陽の400万倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在しており「いて座A*(エー・スター)」と呼ばれています。ブラックホールの周囲には「降着円盤」と呼ばれる高温のガス円盤があり、そこから非常に強力な電波が放射されています。いて座A*では、数時間の間に数倍明るくなる増光現象(フレア)が起きることがあります。
慶應義塾大学の岩田悠平氏、岡朋治教授らの研究チームは、2017年10月にアルマ望遠鏡で得られた天の川銀河の中心方向の観測データを解析し、「いて座A*」の電波強度を測定しました。電波強度の変化のようすを調べたところ、1時間以上かけてゆっくりと変動しながら、ときおり瞬きのような30分程度の短い周期的な変動が起きていることが分かりました。
30分周期は、降着円盤の最も内側(ブラックホール中心から0.2天文単位の距離)での回転周期に相当します。降着円盤内の高温ガスの塊(ホット・スポット)が発生して回転運動することで、周期的に強度が変動しているとみられます。なお1天文単位は、太陽〜地球間の平均距離とほぼ同じで約1億5000万kmです。0.2天文単位は、太陽系でいえば水星の公転軌道より内側になります。
2019年4月、楕円銀河M87の中心のブラックホールシャドウを、EHT(Event Horizon Telescope)で撮影した画像が発表されました。いて座A*もEHTの主なターゲットになっています。ただ今回の結果が示唆するように、いて座A*は明るさと形が刻々と変化するため、EHTでの撮像は容易ではないと研究チームでは考えています。
この研究により、電波強度の変動からブラックホールのすぐ近くで起きている現象を描き出せる可能性が示されました。同様の観測を続けることで、ガスがブラックホールを周回しながら吸い込まれていくようすを観測することも期待されます。
Image Credit: 慶應義塾大学