イギリス・カーディフ大学のジェーン・グリーブス氏らの研究チームは、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡とアルマ望遠鏡による観測で、金星の雲の中にホスフィン(リン化水素、PH3)という分子を検出したと発表しました。ホスフィンは地球上では微生物によって作られる(あるいは工業的に作られる)ことが知られており、太陽系外惑星での生命存在の指標(バイオシグナチャー)の一つとされている分子です。
金星はほぼ二酸化炭素からなる分厚い大気に包まれています。地表付近の気圧は90気圧にもなり、大気の温室効果のため表面付近の気温は460℃に達します。ただ今回ホスフィンが検出された高度50〜60km付近では、気温は0〜30℃ほどになっています。以前から、金星には空中に浮かぶ生物が存在するかもしれないとする仮説がありました。しかしその高度の雲は濃硫酸を含むなどきわめて酸性度が高く、生命には厳しい環境です。
今回検出されたホスフィンは、大気分子10億個に対して20個程度の割合で存在してることが分かりました。研究チームは太陽光や雷による化学反応、火山ガスによる大気への供給、地表から風で吹き上げられる微量元素など、ホスフィンの成因についてさまざまな検討を行いましたが、ホスフィンの量の1万分の1程度しか説明できませんでした。もし微生物が存在するとしたら、ホスフィンの量を説明できるとのこと。ただ検出されたホスフィンは、未知の化学反応によって作られている可能性が高いと研究チームでは見ているようです。
今回の発見は、バイオシグナチャーとしてのホスフィンの妥当性を検証するための重量な材料であり、また金星大気の今後の詳細観測の重要性を示す結果ともなりました。