はやぶさ2がタッチダウンしてサンプル採取を行なった小惑星リュウグウ。リュウグウは現在、地球と火星の間の軌道を公転しています。ところがリュウグウはかつて、太陽に近づいていた時期があったようです。
はやぶさ2は、タッチダウンと同時に弾丸をリュウグウ表面に当て、その衝撃で舞い上がったサンプルを採取しました。またタッチダウン後にはガスを下方に噴射して機体を上昇させました。
2019年2月22日に行われた第1回目のタッチダウンの際、弾丸やガス噴射によって、岩石とともに赤黒い微粒子が舞い上がり、直径10mほどの微粒子の雲が発生しました。この領域の色は、タッチダウン前は周囲と比べてやや青かったのですが、舞い上がった微粒子が堆積した後は赤くなりました。赤黒い微粒子は、もともと岩石の表面や岩石どうしのすき間に付着していたものだとみられています。
一方、これまでの研究から、リュウグウの表面は中緯度地域で赤黒く、赤道や極付近では青白いことが分かっていました。また今回の研究から、相対的に古いクレーターは周囲と似たような赤さだったのに対して、相対的に若いクレーターでは周囲より青くなっていることが分かりました。このことから、もともと青い物質でできていたリュウグウで古いクレーターができた後に表面が赤く変化するイベントがあり、その後で若いクレーターができて地下にあった青い物質が露出したことが明らかになりました。
赤や青の物質が緯度によって分布が分かれていることは、リュウグウ表面を赤く変化させたイベントが、太陽による加熱または宇宙風化によるものであることを示しています。また赤いクレーターと青いクレーターとが、はっきりと二分されていることは、赤く変化させたイベントが短期間で起きたことを意味しています。
それらのことからリュウグウはかつて、現在よりも太陽に近づく軌道を公転していた時期があったことが分かったのです。水星の公転軌道より内側まで、太陽に接近していた可能性もあったかもしれないとみられています。赤いクレーターの分析から、リュウグウがコマ型の形状になってから赤くなるまで900万年と推定されました。また青いクレーターの分析から、リュウグウの表面が赤くなったのは30万年前〜800万年前の間の短い期間であると推定されました。
表面が赤くなった後、微小天体の衝突や熱疲労によって岩が破壊されて赤黒い微粒子が生成されました。タッチダウンのときに見られた赤黒い微粒子は、そのような粒子だと考えられています。タッチダウン地点には赤黒い物質と青白い物質が存在しており、変成を受けた物質と受けていない物質の両方が採取された可能性が高いと考えられています。
(東京大学)https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2020/6848/