NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査車パーサヴィアランスにより、かつての火星の生物の痕跡の可能性があるものが発見されたとの発表がありました。ただし生命存在の有無について結論づけるにはさらなるデータと研究が必要とのことです。
「チェヤヴァ滝」と名付けられた岩石を調査

パーサヴィアランスは2021年2月に火星のジェゼロ・クレーター内に着陸しました。このクレーターはかつて湖だったと考えられており、クレーター内には流れ込む水によって形成されたとみられるデルタ(三角州)があります。
今回の発見は、「チェヤヴァ滝(Cheyava Falls)」と名付けられた岩石を調査したものです。その岩石は、クレーター内の「ネレトヴァ渓谷(Neretva Vallis)」にある「ブライトエンジェル層」で見つかりました。ネレトヴァ渓谷は、かつてクレーターに流れ込んだ水によって形成された幅400mほどの渓谷です。
探査車に搭載されている科学機器による分析から、この層の堆積岩が粘土とシルトで構成されていることがわかりました。それらは地球上では過去の微生物を保存していることがあり、また有機炭素や硫黄、酸化鉄、リンなども豊富に含まれています。
「ブライトエンジェル層で発見された化合物の組み合わせは、微生物の代謝にとって豊富なエネルギー源だった可能性がある」と、論文の筆頭著者であるニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のJoel Hurowitz氏は述べています。
微生物に関連しているかもしれない鉱物も

チェヤヴァ滝は、1m×0.6mほどの矢じり形の岩石です。パーサヴィアランスがその岩石を調査した際、カラフルな斑点のようなものを発見しました。岩石に含まれる有機炭素や硫黄、リンなどの原材料を微生物がエネルギー源として利用していたならば、岩石の斑点は微生物によって残されたものである可能性があるとのことです。
またそれらの斑点には、ビビアナイト(藍鉄鉱)やグレイジャイトなどの鉱物の特徴がみられました。ビビアナイトは地球上では堆積物や泥炭地、腐敗した有機物の周囲によくみられます。またグレイジャイトは地球上のある種の微生物によって生成されることがあります。
これらの鉱物は堆積物と有機物との間の電子移動反応で形成されたとみられ、その組み合わせは微生物の潜在的な「指紋」となりうるものです。微生物はそれらの反応から成長のためのエネルギーを生み出していたのかもしれません。
これらの鉱物は、生物学的な反応を伴わずに、持続的な高温や酸性条件、有機化合物との結合などにより生成されることがあります。ただブライトエンジェル層の岩石には、高温や酸性条件を経験した痕跡がみられず、そこにある有機化合物が低温で反応を触媒することができたのかは不明です。
また今回の発見は、パーサヴィアランスが調査してきた中で最も若い堆積岩が関係しています。従来は火星の古代の生命の痕跡は、より古い岩石層に限られるだろうとみられていました。今回の発見は、火星がこれまで考えられてきたより長い期間にわたり、あるいは火星の歴史の中でより後の時代までハビタブルだった可能性があることなどを示唆しています。
サンプルを地球へ持ち帰っての分析が必要
パーサヴィアランスは、チェヤヴァ滝からサンプル(試料)をすでに採取しています。「サファイア峡谷(Sapphire Canyon)」と名付けられたそのサンプルには、生命の痕跡が含まれている可能性があります。今回の発見を最終的に確かめるには、そのサンプルを地球に持ち帰り、地上の設備を使って分析する必要があると考えられています。
NASAはESA(ヨーロッパ宇宙機関)と共同で、パーサヴィアランスが採取したサンプルを地球へ持ち帰る「火星サンプルリターン計画」を進めてきました。ただトランプ政権でのNASAの予算削減によってサンプルリターン計画は中止が提案されているなど先行きが不透明になっています。
(参照)火星探査車パーサヴィアランス、生命誕生に必須の3大要素に関連した岩石を発見
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS
(参照)NASA