ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は2022年9月5日、火星の最初の画像とスペクトルを取得しました。この画像の右側の2枚がウェッブ望遠鏡の画像です。左は参照用の火星マップで、シアンと白の枠はそれぞれ右の同じ色の枠に対応しています。
ウェッブ望遠鏡の画像はどちらも近赤外線カメラ(NIRCam)を使い異なる波長で撮影されたものです。右上は2.1μmの赤外線でとらえたものです。2.1μmの赤外線は主に太陽光の反射よるもので、ホイヘンス・クレーター(Huygens Crater)やヘラス平原(Hellas Basin)、大シルチス(Syrtis Major)など左の可視光画像と似たような表面のようすが映し出されています。
右下は4.3μmの赤外線でとらえたもので、熱放射を示しています。この波長の赤外線の明るさは火星表面と大気の温度に関係しています。太陽がほぼ真上にある場所が最も明るくなっており、極に向かって暗くなっていきます。撮影されたのは北半球の冬の時期なので、北半球のほうが暗くなっています。
なお4.3μmの赤外線は、火星大気中の二酸化炭素分子に吸収されます。ヘラス盆地が暗く見えているのは温度が低いわけではなく、その効果によるものです。NASAゴダード宇宙飛行センターのGeronimo Villanueva氏は次のように説明しています。「ヘラス盆地は標高が低いため気圧が高くなります。高い気圧は『圧力広がり(pressure broadening)』と呼ばれる効果により特定の波長範囲(4.1〜4.4μm)の熱放射の抑制につながります」
非常に遠い宇宙まで見ることができるウェッブ望遠鏡で火星を撮影することは簡単に思えるかもしれません。しかし、遠方のごく淡い銀河を観測できるウェッブ望遠鏡にとって火星は明るすぎるため、撮影するには特別な技術が必要になります。撮影にあたっては露光時間を非常に短くして検出器がとらえた光の一部だけを測定、さらに特別なデータ解析を行うことで火星の明るさを調整したとのことです。
火星の近赤外スペクトル
こちらは近赤外線分光器(NIRSpec)によって取得された火星の近赤外スペクトルです。NIRSpecの6つの高解像度分光モードからの測定値を組み合わせたものです。
スペクトルの予備解析では、塵、氷の雲、火星表面の岩石の種類、大気組成についての情報を含むスペクトルの特徴が示されています。またスペクトルには二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、水(H2O)によるくぼみがみられます。研究者はこのスペクトルを分析し論文の準備を進めています。
将来的には、画像データと分光データを利用して火星全体の地域差を調査し、メタンや塩化水素など大気中の微量気体を探索するとのことです。
Image Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Mars JWST/GTO team