銀河の周囲には「球状星団」と呼ばれる星の集団が存在しています。球状星団では、星が球状に高密度で密集しています。そのような球状星団は、天の川銀河では150個ほど知られています。今回の研究で観測対象となったNGC 6397も、天の川銀河の球状星団の一つです。7800光年の距離にあり、地球に最も近い球状星団の一つです。
研究チームは当初、NGC 6397には中間質量ブラックホールが存在しているのではないかと考えていました。中間質量ブラックホールとは、大質量星の最期にできる恒星質量ブラックホールと、銀河中心に存在する超大質量ブラックホールの中間のブラックホールです。
ブラックホールは電磁波では観測することができません。そこで研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡やガイア衛星のデータを元に星団内部の星の位置や速度を分析し、ブラックホールの重力の影響を調べました。そして星の軌道の大きさや形から、球状星団の中心部に一つの重いブラックホールがあるのではなく、より小さなブラックホールの群れ、ミニクラスターがあるとする結論に至りました。NGC 6397には20個以上のブラックホールが存在すると予想されています。
なぜブラックホールが中心部に集中するのでしょうか。球状星団の中では、ブラックホールがより小質量の星との重力相互作用により星団の中心へ向かって徐々に沈んでいきました。運動量の交換によって、質量の大きな天体は星団の中心部へ、質量の小さな星は星団の周辺部へと移動していったのです。中心部に集中的に存在するブラックホールは、最終的に合体して重力波を発することになるかもしれません。
(参照)Hubblesite、ESA/Hubble