ホットジュピターの大気で岩石を構成する元素を多数発見

主星のすぐ近くを公転する巨大ガス惑星で、いわゆる「ホットジュピター」と呼ばれるタイプの太陽系外惑星であるWASP-76b。マグネシウムやカルシウム、ニッケルなど、地球上では岩石を構成する元素が、WASP-76bの大気中で発見されました。そのような元素は、太陽系の木星や土星では見つかっていません。

WASP-76bの想像図
WASP-76bの想像図

WASP-76bは、うお座の方向、634光年の距離にある大質量星のすぐ近くを公転しています。主星からの距離は、太陽〜水星間の12分の1ほどしか離れていません。そのため大気は2000℃もの高温になっています。WASP-76bの質量は木星とほぼ同じですが、高温のため膨らんでおり、体積は木星の6倍ほどになっています。

2013年に発見されたWASP-76bについては、これまでにも多くの研究がなされてきました。2020年には大気中に鉄の痕跡が発見され、鉄の雨が降っている可能性があるとする研究が発表されたこともあります。(参考記事)鉄の雨が降る太陽系外惑星

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巨大ガス惑星の上層大気の組成は温度に対して敏感か

今回、カナダ、モントリオール大学のStefan Pelletier氏らの研究チームは、ハワイ、マウナケア山頂にあるジェミニ北望遠鏡に搭載された「MAROON-X」という新型分光器を使ってWASP-76bの観測を行いました。その結果、ナトリウム、カリウム、リチウム、ニッケル、マンガン、クロム、マグネシウム、バナジウム、バリウム、カルシウムのほか、以前検出されていた鉄など、地球上であれば岩石を構成する元素が多数発見されました。太陽系の木星にも、それらの元素は存在しているとみられますが、低温で大気中に蒸発しないため検出することができないと見られています。

研究チームがWASP-76bの大気中で検出した多くの元素の存在量は、主星であるWASP-76や、私たちの太陽における存在量と非常によく一致していました。これは、巨大ガス惑星が、原始惑星系円盤の組成を維持している可能性を示唆しています。

一方で、チタンやアルミニウムなど、さらに高温でなければ蒸発しない元素は検出されませんでした。研究チームは、巨大ガス惑星の上層大気の組成は温度に対して非常に敏感である可能性があると見ています。「もし確認されれば、この発見は温度がわずかに異なる2つの巨大ガス惑星が、大きく異なる大気を持つ可能性があることを意味するでしょう」とPelletier氏は語ります。

また今回の研究では、系外惑星で酸化バナジウムが初めて明確に検出されました。酸化バナジウムは、地球の上層大気を効率的に加熱するオゾンと同様の役割を果たすとのことです。大気の温度が高度に応じて低下するのではなく、酸化バナジウムの存在によって上昇する可能性があります。

Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine/M. Zamani

(参照)Université de MontréalNOIRLab