日欧共同の水星探査計画「ベピコロンボ」は、2023年6月20日(日本時間、以下同じ)に水星で3回目となるフライバイを行いました。水星への最接近は20日午前4時34分で、水星表面から約236km上空を通過しました。
ベピコロンボはフライバイで軌道の調整を行いつつ、モニタリングカメラを使って水星表面の撮影も行いました。ここでは、フライバイ後にESA(ヨーロッパ宇宙機関)から最初にリリースされた3枚の画像を紹介します。
今回のフライバイで、最接近時にベピコロンボは水星の夜側を通過しました。太陽光を浴びて明るい表面が見え始めたのは最接近から約12分後、水星表面から約1800kmまで離れた地点でした。
最接近15分後、約2536kmから撮影
この画像は最接近の15分後、午前4時49分に撮影したものです。ベピコロンボは水星表面から約2536kmの距離に位置していました。画像上には高利得アンテナ、左には探査機の一部が見えています。
多くのクレーターとともに、「ビーグル断崖(Beagle Rupes)」と名付けられた長さ600kmの断崖地形が、Sveinsdóttirクレーターを横切っているのが見えています。水星のこのような断崖地形は、かつて水星が冷却して収縮した際にできた「しわ」のようなものである可能性があります。
画像右端に映っている「Manleyクレーター」は、ベピコロンボの接近に先立って名付けられたばかりのクレーターです(2023年6月13日にIAU[国際天文学連合]で承認)。直径218kmのクレーター内部には、直径120kmの「ピークリング」と呼ばれる環状構造も見られます。
最接近22分後、4000kmから撮影
こちらは最接近から22分後の20日午前4時56分、ベピコロンボが水星表面から4000kmの距離に位置しているときに撮影された画像です。
1枚目の画像よりも広い範囲が映し出されています。昼夜境界付近には、直径716kmのレンブラント・クレーターが見えています。また水星での2回目のフライバイ時に撮影された直線的な「チャレンジャー断崖」も、ビーグル断崖の東側に映っています。
なお水星の断崖地形は、過去の探検に使われた船の名前などにちなんで名付けられています。「ビーグル」は19世紀前半にチャールズ・ダーウィンが搭乗した船、「チャレンジャー」は19世紀後半に探検航海を行った船の名前です。
最接近55分後、1万1780kmから撮影
こちらは最接近から55分後の20日午前5時29分、ベピコロンボが水星表面から1万1780kmの距離に位置しているときに撮影された画像です。
水星の上端には、水星最大の衝突地形である「カロリス盆地」や、その内部にあるアジェ(Atget)・クレーターが見えています。アジェ・クレーターが暗く見えるのは、カロリス盆地内の明るい火山平原に小天体が衝突し、地下にある暗い物質を掘り起こしたためです。
一方、シャオジャオ(Xiao Zhao)・クレーターからは明るい物質が放射状に伸びています。衝突によって生じるクレーター周囲の明るい光条は、時間とともに見えなくなっていきます。シャオジャオ・クレーターではまだはっきりと見えており、このクレーターが最近形成されたことを示しています。
なお水星のクレーターには、世界の芸術家にちなんだ名前が付けられています。今回の記事で紹介したものでは、Sveinsdóttirはアイスランドの画家・テキスタイル作家、Manleyはジャマイカの彫刻家・画家、レンブラントはオランダの画家、アジェはフランスの写真家、シャオジャオは中国の画家にちなんだ名前です。水星のクレーターには、日本人にちなんで名付けられたものもあります。参考記事:日本人にちなむ名前が付けられた水星のクレーターの一覧
こちらの画像は、文字入りの画像でプロットされている地形を、水星全体のマップ画像にプロットしたものです。
3回目の水星フライバイの際に撮影された画像をもとにした映像が、後日ESAから公開されました。→ベピコロンボから届いた3度目の水星フライバイ映像
2025年12月に水星へ到着
ベピコロンボは、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)の水星磁気圏探査機「みお」(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)と、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の水星表面探査機(MPO:Mercury Planetary Orbiter)という2機のオービターで水星の観測を行うミッションです。
ベピコロンボは、「みお」とMPO、そして電気推進モジュール(MTM)が結合した状態で水星に向かっています。フライバイ時には探査機のメインのカメラはまだ使うことができないため、今回紹介した画像はいずれも、MTMに3台設置されているモニタリングカメラの1台で撮影されたものです。
ベピコロンボは2025年12月に水星の周回軌道に入るまで、地球、金星、水星で合計9回のフライバイを行います。今回の水星での3回目のフライバイは、全9回のうちの6回目です。今後、あと3回、水星でフライバイを行うことになります。
Image Credit: ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO
(参照)ESA