現在、スワン彗星(C/2020 F8)が太陽に近づきつつあり、5月下旬から6月上旬にかけて肉眼でも見える可能性があるといわれています。この新彗星は、オーストラリアのアマチュア天文家Michael Mattiazzo氏によって2020年4月に発見されました。
ところで、このスワン彗星の名前の由来をご存じでしょうか? 実はこの名前は、太陽観測衛星SOHOに関係しています。
SOHOは、NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(ヨーロッパ宇宙機関)で運用する太陽観測衛星です。この彗星は、SOHOに搭載されているSWAN(Solar Wind ANisotropies:太陽風異方性観測装置)という装置のデータから発見されたことから「スワン彗星」と呼ばれているのです。
SWANは、水素原子が出す特定の波長の紫外線を検出する装置です。それにより、太陽から惑星間空間へと絶えず流れ出している太陽風(荷電粒子の流れ)をマッピングし、太陽風の変化をとらえます。
彗星が太陽に近づいてくると、太陽の熱を受けて氷の核から放出される水蒸気から水素が発生します。さらに太陽放射は、水分子(H2O)をHとOHに分解することができます。その結果、核を取り囲む水素の雲ができ、SWANで彗星の存在を知ることができるのです。スワン彗星は4月15日までに、毎秒1300kgもの水蒸気を放出していたと推定されています。
冒頭のアニメーションは、SWANによって作成された全天マップの中でのスワン彗星の動き(4月1日〜5月9日)を示したものです。左側に現れた白い点(白矢印の先)が徐々に大きくなっていくのが分かります。5月2日以降は画像右側に見えています。
実はSOHOのデータからは、SOHOが打ち上げられた1995年以来、これまで3932個の彗星が発見されています。そのほとんどはSOHOのコロナグラフのデータによるものです。コロナグラフとは、太陽本体を円盤で隠して太陽の上層大気(コロナ)を観測するための装置です。SWANで発見された彗星は、今回のスワン彗星で12個目です。そのうち8個は、今回と同じくMattiazzo氏によって発見されました。
Image Credit: ESA/NASA/SOHO
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2020/new-comet-discovered-by-esa-and-nasa-solar-observatory