ビッグバンの直後、宇宙にはほぼ水素とヘリウムしか存在していませんでした。その後生まれた星の中心部での核融合反応により、それらより重い元素(天文学では「金属」と呼ばれます)が生成され、超新星爆発によって周囲にばらまかれます。その結果、金属量や化学組成といった化学的環境も、領域によって異なる時間スケールで進化していきます。
低金属量の環境でどのような星が生まれるのかを調べるため、国立天文台の安井千香子氏らの研究チームは、天の川銀河の外縁部にある星形成領域「Sh 2-209(S209)」を、すばる望遠鏡の赤外線観測装置「MOIRCS」で観測しました。S209では、太陽近傍と比べて金属量が10分の1程度しかなく、約100億年前の宇宙に似ています。
観測の結果、S209は大小2つの星団からなっており、大きい方の星団は1500個の星で構成されていることが明らかになりました。分析の結果、太陽近傍の星形成領域と比べ、S209では重い星の割合がやや高い傾向がみられる一方で、太陽より軽い星も数多く存在することがわかりました。
安井氏は「今回の結果は、宇宙初期には重い星が比較的多く形成されるものの、その数自体は、現在の典型的な星団と比べて劇的には変わらないことを示唆するものになりました」といいます。「今後はさまざまな環境下で同様の調査をすることで、天の川銀河全体の進化の描像が明らかになっていくことが期待されます」
(参照)すばる望遠鏡