ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測により、「メチルカチオン(CH3+)」という炭素を含む陽イオンの分子が、オリオン星雲の中心部で発見されました。宇宙でCH3+が発見されたのは、観測史上初めてのことです。
ウェッブ望遠鏡が観測したのは、地球から約1350光年の距離にあるオリオン星雲の中心部、「オリオン・バー」と呼ばれる領域です。そこにある「プロプリッド(proplyd、原始惑星体)」と呼ばれる、光蒸発(恒星からの放射によりガスが電離して流出する現象)する円盤「d203-506」でCH3+が検出されました。
複雑な有機分子の生成過程の鍵となる分子
この画像の左側には、ウェッブ望遠鏡のNIRCam(近赤外線カメラ)でとらえたオリオン・バーが映っています。右上は、その一部をMIRI(中間赤外線装置)で撮影した画像。右下はNIRCamとMIRIの画像を組み合わせたもので、d203-506が映っています。
CH3+には独特の特性があります。宇宙で最も豊富に存在する水素との反応は比較的非効率ですが、一方で他の分子とは容易に反応します。生命体の形成にもつながる複雑な有機分子の生成過程の鍵となる分子と考えられてきました。
CH3+の重要性は1970年代から指摘されてきました。d203-506のような円盤にある分子の多くは、電波による観測で検出されます。しかしCH3+は、電波領域に特徴的な遷移線をもたないため、赤外線での高精度な観測が必要でした。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって、CH3+が今回初めて検出することができたのです。
d203-506の星は、太陽の10分の1ほどの質量の小さな赤色矮星です。d203-506は、近くにある高温の若い大質量星からの強烈な紫外線にさらされています。ほとんどの円盤は強烈な紫外線にさらされる時期を経験すると考えられており、私たちの太陽系も、形成の初期段階では似たような環境にあったと見られています。研究チームは、CH3+の生成に必要なエネルギーを紫外線が供給している可能性があると予測しています。
オリオン・バーのウェッブ画像
こちらは、冒頭の3枚の中のオリオン・バーの画像です。
オリオン星雲には「トラペジウム」と呼ばれる若く明るい星団があります(この画像では左上の枠外にあり映っていません)。オリオン・バーでは、トラペジウムからの強烈な紫外線がガスと塵の雲を侵食しつつあります。中央右に映る明るい星は「オリオン座θ2星A(θ2 Orionis A)」です。
画像にはd203-506とは別のプロプリッドも映っています。こちらは上の画像の一部を拡大表示したもので、「HST-10」と呼ばれるプロプリッドが映っています。
Main Image Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Zamani (ESA/Webb), the PDRs4All ERS Team