チャンドラX線望遠鏡などの観測により、地球から約84億光年離れたところで「リラックス」した銀河団「SPT-CL J2215-3537(以下SPT2215と略)」が発見されました。SPT2215の質量は、太陽の約700兆倍と推定されています。これほど遠方でリラックスした銀河団が発見されたのは初めてです。
銀河が100個程度以上集まった集団は「銀河団」と呼ばれます。銀河同士の間は何もないわけではなく、高温ガスやダークマター(暗黒物質)で満ちています。銀河間のガスが滑らかで乱れがなく、銀河団同士の衝突・合体の形跡がみられないような銀河団は「リラックス」していると表現されます。
銀河団は、他の銀河団や銀河群と合体することによって成長します。銀河団同士が合体すると、銀河間ガスも混ざり合い乱れが生じます。しかし十分な時間が経過すると、銀河間ガスは滑らかで「リラックス」した状態になることができます。
銀河団の中央にある巨大銀河では大量の星が誕生している
SPT2215が映るこの画像は、チャンドラX線望遠鏡がとらえたX線画像(青)と、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた紫外線、可視光、赤外線の合成画像(シアンとオレンジ)を重ねたものです。チャンドラがとらえたガス雲は滑らかで乱れていません。中央部の明るい部分は、銀河団の中央にある巨大銀河です。
中央の巨大銀河の中心には、超巨大ブラックホールが存在しています。この銀河で莫大な数の新しい星が誕生していることも発見されました。銀河団の中心銀河での星形成は、銀河団がリラックするするときに高温ガスが冷やされることによって促進されます。
一方で、ブラックホールが活発だとガスが冷却されずに大規模な星形成は起きにくくなります。SPT2215の超巨大ブラックホールは、チャンドラX線望遠鏡がこれまでに観測したリラックスした銀河団とは異なり、ガスの冷却を妨げていないようです。
また中心銀河は孤立しており、約60万光年以内にはこれほど明るく広大な銀河が存在していません。このことも、この銀河団が過去数十億年にわたり他の銀河団と合体したことがないことを示唆しており、SPT2215がリラックスしていることを示しているとのことです。
Image Credit: X-ray: NASA/CXC/MIT/M. Calzadilla; UV/Optical/Near-IR/IR: NASA/STScI/HST; Image processing: N. Wolk