月は1年に3.8cmずつ地球から遠ざかっています。同じように、土星最大の衛星タイタンも土星から遠ざかっています。ただタイタンが遠ざかる速度は月よりかなり遅く、1年に0.1cm程度ずつだと考えられてきました。ところが新しい研究によって、タイタンは1年に11cmずつ遠ざかっていることが分かりました。従来の推定より100倍以上も速く遠ざかっていたのです。
土星の衛星のなかで、タイタンは比較的外側を公転しています。タイタンのように外側を公転する衛星は惑星の重力から離れているため、内側を公転する衛星よりもゆっくりと外へ移動すると考えられていました。
ただ、カリフォルニア工科大学の理論天文学者ジム・フラー氏は2016年に、外側の衛星も内側の衛星と同じような速度で外側に移動しうると予測する研究を発表していました。
2020年6月8日、Nature Astronomy誌に掲載された論文によると、2つの研究チームがそれぞれ異なる手法を用いて10年間にわたるタイタンの軌道を測定しました。
一方のチームは「アストロメトリ」と呼ばれる手法を用いました。カッシーニ探査機が撮影した画像を使い、背景の星に対するタイタンの位置を正確に調べたのです。もう一方のチームは「ラジオメトリ」と呼ばれる手法で、タイタンの重力の影響を受けたときのカッシーニ探査機の速度を測定しました。両者の結果は一致し、さらにそれはフラー氏の理論とも一致するものでした。
タイタンは現在、土星から120万kmの距離を公転しています。今回の研究は、従来考えられてきたよりも、タイタンが土星に近いところで誕生したことを示唆しています。論文の主著者であるValéry Lainey氏は、「今回の研究結果は、土星系の年齢や、衛星がどのようにして形成されたのかという、かねてから議論の的だった疑問に、新しい重要なパズルのピースをもたらしました」と述べています。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute
https://www.nasa.gov/feature/jpl/saturns-moon-titan-drifting-away-faster-than-previously-thought
https://www.caltech.edu/about/news/titan-migrating-away-saturn-100-times-faster-previously-predicted