夜空に輝く恒星の中には、時間とともに明るさを変化させる変光星があります。変光星の中でも「たて座デルタ型変光星」と呼ばれるタイプの星は、脈動のパターンが複雑でこれまでよく理解されていませんでした。
地震波を利用すると地球の内部を調べることができます。天文学者は同じ原理を応用して、星の脈動を通じて星の内部を研究しています。このような研究分野は「星震学」と呼ばれます。恒星内部の音波は、深さによってスピードを変えながら伝わり、星の表面の脈動パターンとなって現れます。そのパターンを明るさの揺らぎとして検出することで、星の年齢や温度、組成、内部構造などを調べることができます。
たて座デルタ型変光星は、太陽の1.5〜2.5倍の質量を持つ星です。1900年、たて座デルタ星がこのタイプの星として初めて同定されたことから、そのように呼ばれています。現在ではケプラー宇宙望遠鏡などの観測によって、たて座デルタ型変光星は数千個以上見つかっています。
これらの星の自転は高速で、一般的に1日に1〜2回自転しています。太陽の10数倍も自転スピードが速いため、星は極方向にややつぶれた扁平な形状になり、また脈動パターンが複雑になっています。その複雑な脈動パターンを解き明かすため、太陽系外惑星を探索するための衛星TESSのデータが利用されています。
2018年に打ち上げられたTESSは、トランジット法で太陽系外惑星を探索する衛星です。トランジット法とは、恒星の手前を惑星が横切るときに生じる恒星の明るさのわずかな変化をとらえる方法です。この明るさの変化をとらえる能力が変光星の観測にも役に立つのです。
TESSは4台のカメラで視野全体の画像を30分ごとに撮影し、また事前に選ばれたターゲット星は2分ごとに撮影しています。30分間隔では、たて座デルタ型変光星の脈動をとらえるには長すぎますが、2分ごとに撮影される画像にたて座デルタ型変光星も含まれています。そのようなTESSのデータや、すでに観測を終了した系外惑星探索衛星ケプラーのデータなどから、明確なパターンを持つ、たて座デルタ型変光星が60個見つかりました。それらの星に明確なパターンがあるのは、星の年齢が若いことや、星の自転軸の向きが関係しているとみられています。
TESSは2年間のミッションが終了し、2020年7月からの延長ミッションが承認されました。この延長ミッションでは、視野全体の画像の取得の頻度が30分から10分に変更されます。今後、さらに多くのたて座デルタ型変光星の脈動をとらえることができると期待されています。
南天のうさぎ座にある、たて座デルタ型変光星の1つHD 31901の脈動を聞いてみましょう。音は、TESSが27日間にわたって観測した55の脈動パターンを5万4000倍に加速したものです。たて座デルタ型変光星の脈動パターンは一見ランダムに見えますが、このようなランダムではない脈動パターンを持っているものもあります。
Credit: NASA's Goddard Space Flight Center