星が少ない超淡銀河の成因は銀河団内を移動した際の「向かい風」か!? | アストロピクス

星が少ない超淡銀河の成因は銀河団内を移動した際の「向かい風」か!?

数百〜数千個もの銀河の集団は「銀河団」と呼ばれ、銀河団の中は高温ガスで満ちていることが知られています。それぞれの銀河は同じ場所に止まっているわけではなく、銀河団内を移動します。その際、銀河は高温ガスの圧力を「向かい風」のように受けることになります。この「向かい風」が、「超淡銀河(UDG:ultra-diffuse galaxy)」と呼ばれる、淡く広がった矮小銀河の形成に大きな役割を果たしている様子が、すばる望遠鏡の画像などを用いた研究から明らかになりました。

超淡銀河には天の川銀河の100分の1以下程度の星しかなく、星形成も起きていません(参考記事:星が少なく非常に暗い。幽霊のような銀河「UDG 4」)。かみのけ座銀河団では約1000個の超淡銀河が発見されおり、銀河団内ではありふれた存在です。それにもかかわらず、超淡銀河がどのように形成されたのかは、さまざまな仮説はあるもののよく分かっていません。

ロシア、アメリカ、日本、フランス、アラブ首長国連邦の研究者からなる国際研究チームは、超淡銀河の前段階と考えられる銀河に着目しました。

研究チームはまず、かみのけ座銀河団および「Abell 2147」という銀河団の銀河カタログから、現在は星形成がないものの、平均年齢が15億年以下の比較的若い星からなる、薄く広がった銀河を11個選び出しました。それらは爆発的な星形成が終わった後の銀河だと考えられています。

そしてすばる望遠鏡のアーカイブ画像と、アメリカのアリゾナ州にある口径6.5mのMMT(マルチミラー望遠鏡)を使った分光観測により、銀河の形状や周辺の様子、銀河内の星の性質を調べました。

すばる望遠鏡の画像を調べた結果、いずれの銀河にも「尾」のような構造が付随していることが判明しました。この「尾」は、銀河のガスが「向かい風」によってはぎ取られたことを示すものです(参考記事:まるでクラゲ? アルマ望遠鏡やVLTがとらえた銀河の「尾」)。またMMTによる分光観測からは、それぞれの銀河の星形成の歴史が推定できます。

次の画像は、以上の結果を合わせて考えられた、渦巻銀河から超淡銀河への進化のシナリオを表した概念図です。

研究チームが考えたシナリオは次のようなものです。

これらの銀河は約120億年前に形成され(a)、約10億年前から2億年前にかけて銀河団の中心へと移動する際、銀河団ガスの「向かい風」によって爆発的な星形成が誘発されるとともに、銀河ガスのはぎ取りが発生しました(b)。ガスのはぎ取りや星形成が進むことで銀河内のガスが消費されると星形成はストップします(c)。11個の銀河はいずれも、このようにして形成されたと研究チームでは見ています。

さらに新しい星形成がないまま数十億年が経過するうちに、星が死んでいくことで銀河が暗くなり、また星の数の減少や他の銀河との相互作用などによって星が薄く広がっていき、最終的には超淡銀河や矮小楕円銀河になると考えられるとしています。

統計的な推定から、かみのけ座銀河団にある超淡銀河の約半数が、銀河団ガスの「向かい風」による星形成の誘発と銀河ガスのはぎ取りという過程を経てできたのではないかと研究チームでは結論づけています。

Image Credit: Kirill Grishin, Legacy Surveys / D. Lang (Perimeter Institute), NAOJ, CFHT, ESO

(参照)すばる望遠鏡