これらの画像には、「スロープ・ストリーク(slope streak)」と呼ばれる、火星表面の斜面に見られる暗い筋が映っています。表面の塵がダストなだれ(dust avalanche)となって下の方へ流れ落ちることで、塵の層の下にあった暗い表面が現れたものだと考えられています。
画像はどちらもNASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターの高解像度カメラHiRISEで撮影されました。1枚目の画像は2017年12月26日、2枚目は2006年12月3日に撮影されたものです。
このようなスロープ・ストリークができる原因として、ドライアイス(二酸化炭素の氷)の霜が重要な役割を果たしている可能性があるとする、NASA・JPL(ジェット推進研究所)のSylvain Piqueux氏らの研究が最近発表されました。
Piqueux氏らは、NASAの火星探査機2001マーズ・オデッセイが可視光でとらえた火星表面の朝の画像をみていたところ、青白い霜らしきものを見つけました。しかし探査機に搭載された温度に敏感なカメラ(熱放射撮像システム:THEMIS)を使い赤外線で見てみると、より広い範囲で、可視光では霜がないように見えるところにも霜があるように見えたのです。
火星では水の氷よりもドライアイスのほうが、しばしば霜として現れます。そのドライアイスの霜が、可視光で見えるところと見えないところがあるのはなぜか。研究チームは、霜と細かい塵粒子が混ざっているために、可視光では目立たないけれども赤外線では目立つようになるのではないかと提案しています。
Piqueux氏らがスリープ・ストリークのある場所をマッピングしてみると、朝に霜がある場所に現れる傾向があることを発見しました。火星の大気は薄く、一晩かけてできた霜は日の出とともにすばやく温められて気化します。Piqueux氏らは霜が気化するときに生じる風によって塵の層がゆるむことで、なだれが発生したのではないかと考えています。
こちらはマーズ・オデッセイのTHEMISで見た火星表面のようすです。主にドライアイスでできている火星の霜が青みがかった白色に見えています。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/UArizona、NASA/JPL-Caltech/ASU