45億年前に火星で発生した巨大衝突の残骸を、火星の地下深くで発見したとする研究が発表されました。NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星着陸機インサイト(2022年にミッション終了)のデータを使った研究です。

太陽系が生まれたばかりのころ、ガスと塵からなる原始惑星系円盤の中で惑星は形成されました。塵どうしが集まってやがて微惑星となり、それらの微惑星が衝突・合体を繰り返して原始惑星が形成されます。そしてさらに原始惑星どうしが衝突・合体をすることで惑星が形成されたと考えられています。そのころの天体の破片が、火星の地下深くに眠っているようなのです。
火星では2種類の地震(火震)が発生
2018年に火星へ着陸したインサイトは、火星の地震(火震)を観測して火星の内部構造を調べることが主な目的のミッションでした。地震が起きると地震波が発生します。その地震波は、さまざまな物質を通過する際に変化します。その変化を調べることで、直接見ることができない地下を調べることができます。
火星では2種類の地震が発生します。一つは熱や圧力により岩石が割れることで発生する地震。もう一つは隕石衝突によって引き起こされる地震です。2025年初めに発表された論文によると、そのうち隕石衝突による地震では、火星の地殻からマントル深部まで達する高周波の地震波が発生します。なお火星のマントルは、1500℃もの高温の固い岩石でできていて、厚みが最大1550kmにもなります。
直径4kmもの塊が火星のマントルに散在

今回、インペリアル・カレッジ・ロンドンのConstantinos Charalambous氏らの研究チームが高周波の地震波を調べたところ、火星のマントル深部ではっきりと変化していたそうです。コンピューターシミュレーションにより、地震波の減速と乱れは、信号がマントル内の小さな局所的な領域を通過したときだけ発生することがわかりました。またそれらの領域が、周囲のマントルとは異なる組成を持つ物質の塊であることも明らかになりました。それらの塊は、太陽系の初期に天体が衝突し、地殻やマントルの破片とともにマントルの奥深くへと運ばれたものだとみられています。それら衝突の痕跡は、直径4kmもの塊の形でマントル全体に散在しているとのことです。

火星にはプレートテクトニクスがなく、内部の循環が地球と比べてゆるやかです。内部に過去の残骸が残っているのはそのためである可能性があります。今回の発見は、水星や金星など、プレートテクトニクスのない他の惑星の地下にも、似たようなものが潜んでいることを示唆している可能性があるとのことです。
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(参照)NASA