火山や衝突クレーター、グラーベン(地溝)、水の流れた跡など、この1枚の画像には火星表面のさまざまな地形が映し出されています。画像はESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査機マーズ・エクスプレスが、2021年5月13日と6月2日に収集したデータから構成されています。
画像のなかで目立っているのは円形の二つの地形です。左上側には衝突クレーター、下側にはカルデラを伴った火山が見えています。
火山は「ジョビス・トーラス(Jovis Tholus)」と呼ばれる楯状火山で、火星最大の火山であるオリンポス山の東のタルシス高地にあります。カルデラは複雑で、少なくとも五つの噴火口から構成されています。最大のものは直径約28kmで、火山の中心からずれたところにあります。周囲はジョビス・トーラスの山腹まで溶岩に覆われてしまったため、火山の本来の姿は見えなくなっています。周囲の平原からの高さは1kmほどです。
画像をよく見ると、北や北東にみられる溝状地形(グラーベン)が一部、流れ込んだ溶岩で埋まっているのがわかります。グラーベンとは、ほぼ平行な断層の間にできた溝のことで、火山活動や地殻変動によって地殻が引き伸ばされたときに形成されます。グラーベンの一部は、ジョビス・トーラスの右側に食い込むように走っているのがみられます。
ジョビス・トーラスの北側には、直径約30kmの衝突クレーターがあります。こちらは宇宙からやってきた小天体が衝突して形成されたものです。衝突時の噴出物が、まるで花びらのような形で周囲に堆積しています。これは水あるいは氷の多い大地に小天体が衝突したことを示しています。
画像左上をよく見ると、水が流れた跡のような地形がみられます。火山の熱によって氷が溶け、また断層が形成された結果、グラーベンを通じて水が地表へ到達し、時間とともに地下の帯水層から大量の水が流出したようです。
こちらは高度別に色分けされた画像です。冒頭の画像ではわかりにくいのですが、こちらの画像からはジョビス・トーラスの東側がやや赤くなっており、標高が高くなっていることがわかります。よく見ると赤い部分の中央付近に細長い亀裂があります。この亀裂は割れ目噴火の噴火口で、かつてジョビス・トーラスよりも粘性の低い溶岩流が噴出したことがあるとみられています。
Image Credit: ESA/DLR/FU Berlin, CC BY-SA 3.0 IGO
(参照)ESA