この画像の左側はアルマ望遠鏡がとらえた原始星HH 212の周辺の様子で、右はその想像図です。アルマ望遠鏡の高解像度での観測により、原始星周辺から噴き出すガスの広がりが詳細に描き出されました。
HH 212はオリオン座の方向、約1300光年の距離にあります。原始星の年齢は約4万歳で太陽の10万分の1ほど、質量は太陽の約4分の1と見られています。原始星の周囲にはガス円盤があり、円盤の中心付近から強力なジェットが噴出しています。
台湾中央研究院天文及天文物理研究所のチンフェイ・リー氏らはアルマ望遠鏡を使い、原始星周辺に広がる塵、一酸化硫黄(SO)分子、一酸化ケイ素(SiO)分子が放つ電波を観測しました。冒頭の画像(左)は、塵をグレー、SO分子をオレンジ、SiO分子を緑として合成したものです。観測の結果、過去の観測で示唆されていた、円盤から噴き出す「円盤風」の空間的な広がりや、強力なジェットとの衝突の様子などがとらえられました。
今回の観測結果を理論モデルと比較することで、以下の3点が明らかになりました。
- 観測された円盤風は、円盤の半径4〜40天文単位の範囲から磁力によって巻き上げられる「磁気円盤風」で説明できること、そして円盤風が円盤の回転の勢い(角運動量)を抜き取っていること
- ジェットは円盤の最内縁部の塵がない領域から放出されており、その根元からガスが原始星に落下していくこと
- ジェットは円盤風と衝突して衝撃波を形成し、円盤風の中に空洞を作っていること。そして、その空洞の外側にSO分子の薄い殻を作っていること
ガス円盤の角運動量が保たれると円盤内のガスが内側に移動できません。今回の発見によって、円盤の外側から内側にガスが輸送され、最終的に原始星に落下していくメカニズムが明らかになったといえるとのことです。
(参照)アルマ望遠鏡