天の川銀河中心の巨大ブラックホールを初撮影

Credit: EHT Collaboration
Credit: EHT Collaboration

天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*(スター)」を初めてとらえた画像が公開されました。世界各地にある8つの電波望遠鏡をつなぐことで地球サイズの仮想的な望遠鏡を作る「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によって撮影されたものです。EHTによる銀河中心の巨大ブラックホールの撮影は、楕円銀河M87の巨大ブラックホールに続いて2例目となります。

ブラックホールからは光が放たれないため、ブラックホールそのものを見ることはできません。しかしブラックホールのまわりに明るく輝くガスなどがあれば、光がブラックホールにとらえられたり曲げられたりすることで、ブラックホールが「影(ブラックホールシャドウ)」として暗く見えます。今回発表されたいて座A*の画像は、明るいリング状の構造に縁取られたシャドウが映し出されたものです。なおブラックホールシャドウはアインシュタインの一般相対性理論から導き出せるもので、今回のいて座A*のリングの大きさは一般相対論の予言と非常によく一致していました。

ある距離までブラックホールに近づくと、光でさえ脱出できなくなります。その距離の境界面は「イベント・ホライズン(事象の地平面)」と呼ばれており、EHTはそれに因んで名付けられました。EHTは世界各国の80の研究機関と300人以上の研究者からなる国際共同プロジェクトで、巨大ブラックホール近傍を撮影することを目標としています。2019年には、楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホールの画像が公開されています。

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M87と天の川銀河のブラックホールを比較

Credit: EHT Collaboration
Credit: EHT Collaboration

こちらはM87の巨大ブラックホール(右)と、いて座A*の画像を並べたものです。いて座A*は、M87の巨大ブラックホールと比べると1000分の1以下の大きさです。一方でM87が地球から5500万光年の距離にあるのに対して、いて座A*は2万7000光年の距離にあり、いて座A*の方が2100倍ほど地球から近い位置にあります。そのため、いて座A*のリングはM87よりもやや大きいサイズとして観測されました。

Credit: EHT collaboration (acknowledgment: Lia Medeiros, xkcd)
Credit: EHT collaboration (acknowledgment: Lia Medeiros, xkcd)

この画像は、M87の巨大ブラックホールと、いて座A*の実際の大きさを比べたものです。太陽系の冥王星の公転軌道やボイジャー1号の位置、水星の公転軌道なども描かれています。冥王星の太陽からの距離は約59億km、水星の太陽からの距離は約5800万kmです。ボイジャー1号は2022年5月13日現在、太陽から約234億kmの距離にあります。

Credit: ESO/M. Kornmesser, EHT Collaboration

M87よりはるかに近距離にあるにもかかわらず、いて座A*の画像を得ることはM87よりも難しかったといいます。いて座A*のリングの形と明るさが、短時間で変化するためです。

いて座A*もM87の巨大ブラックホールも、近くにあるガスは光速近い速度で運動します。しかしサイズの大きなM87のブラックホールでは、ガスが1周するのに数日〜数週間かかります。一方で、いて座A*では数分〜30分程度でガスが1周します。1回の観測(1晩)の間に、M87のブラックホールではガスの明るさや模様などは変わりませんが、いて座A*では激しく変化してしまうのです。そこで研究チームは、観測データから得たさまざまな画像を平均することで、今回の画像を得ることができました。

研究チームによれば今回の結果は、いて座A*がブラックホールであることを初めて視覚的かつ直接的に示す証拠となります。天の川銀河の中心部の星の動きから、太陽の約400万倍の質量を持つコンパクトな天体が存在していることは知られていました。その正体としてブラックホールが筆頭候補として挙げられていましたが、別の種類の天体である可能性も考えられていました。EHTによる今回の観測で、その天体が巨大ブラックホールであることが示されたとのことです。また今回の観測から求められたブラックホールの質量も太陽の約400万倍と見積もられ、従来の値と一致しました。

いて座A*やM87の巨大ブラックホールの観測が行われたのは2017年でしたが、それ以降、観測網に参加する望遠鏡が増えるなどでEHTの感度や解像度は向上しています。いて座A*の時間変動を動画としてとらえることなどを目指し、EHTではさらなる観測が進められる予定です。

(参照)国立天文台EHT-JapanESO