日欧共同の水星探査計画「ベピコロンボ(BepiColombo)」は、2024年9月5日(日本時、以下同じ)に水星での4度目のフライバイ(スイングバイ)を行いました。その際に撮影された水星の画像がESA(ヨーロッパ宇宙機関)から公開されました。
ベピコロンボは9月5日6時48分、水星の表面から約165kmまで最接近しました。今回のフライバイでは、はじめて水星の南極をはっきりととらえることができました。
なお今回の画像は全て、電気推進モジュール(MTM)に設置されたモニタリングカメラ(M-CAM、後述)で撮影されたものです。
最接近直後の撮影画像
この画像は、最接近から間もない5日6時49分にモニタリングカメラ2(M-CAM2)で撮影されました。撮影時の距離は水星表面からわずか177kmでした。ベピコロンボがこれまで撮影した水星の画像の中で最も近くから撮影した画像です。
ヴィヴァルディ・クレーター
この画像の中央付近には、ヴィヴァルディ・クレーターが見えています。画像は最接近の5分後、5日6時53分にモニタリングカメラ2(M-CAM2)で撮影されました。撮影時、ベピコロンボは水星表面から約355kmの距離に位置していました。
ヴィヴァルディ・クレーターは直径210kmで、内部のピークリング(リング状に盛り上がった地形)が特徴的なクレーターです。昼夜境界に近いため太陽光が低い角度で当たっており、地形の凹凸がよくわかります。
最近命名された「ストッダート・クレーター」
こちらは5日6時54分にモニタリングカメラ3(M-CAM3)で撮影された画像です。撮影時、ベピコロンボは水星表面から約555kmの距離に位置していました。
画像中央付近にピークリングがあるクレーターが見えています。直径155kmのこのクレーターには、最近になって「ストッダート」という名前が付けられました。「ストッダート」は、ニュージーランドの芸術家にちなんだもの。ベピコロンボのM-CAMチームの要請を受けて、2024年8月26日にIAU(国際天文学連合)で承認されました。
水星の南極をはじめて観測
この画像は、ベピコロンボが水星から遠ざかっていく途中、5日7時11分にモニタリングカメラ2(M-CAM2)で撮影されました。撮影時、ベピコロンボは水星表面から約3459kmの距離に位置していました。
水星の右上側の昼夜境界付近に水星の南極が映っています。南極が観測されたのは初めてです。南極付近にあるクレーターには、つねに底まで太陽光が届かないものがあります。そのようなクレーターの底は非常に低温で水の氷が存在するとみられています。
モニタリングカメラの位置
この図は、航行中のベピコロンボの構成を示したものです。
ベピコロンボは、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)の水星磁気圏探査機「みお」(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)と、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の水星表面探査機(MPO:Mercury Planetary Orbiter)という2機のオービターで水星の観測を行うミッションです。
現在ベピコロンボは、「みお」とMPO、そして電気推進モジュール(MTM)が結合した状態で水星に向かっています。今回紹介した水星の画像はすべて、MTMに設置されたモニタリングカメラ(M-CAM)で撮影されました。M-CAMは、太陽電池アレイやアンテナなどを監視するためのカメラです。
M-CAMは、MTMに3台設置されています。上の図ではオレンジ色で示されているのが3台のモニタリングカメラの位置です。数字はM-CAM1〜M-CAM3を示しています。
白枠内は各M-CAMの視野を示しており、機体の一部がどのように映るかの例も示されています。M-CAM2にはMPOの磁気センサーや中利得アンテナが、M-CAM3にはMPOの高利得アンテナが映り込みます。
水星到着までの道のり
2018年10月に打ち上げられたベピコロンボは、地球で1回、金星で2回、水星で6回の合計9回のフライバイを行った後で、水星に到着することになっています。
2024年4月、イオンエンジンに十分な電力を供給できない問題がMTMに発生した関係で、MTMのイオンエンジンの出力を下げて運用する方針になり、水星到着は当初予定の2025年12月から2026年11月に延期されました。今回の水星での4回目のフライバイでは、最接近時の距離を予定より近づけて、その後のイオンエンジンの出力を節約することになりました。
水星でのフライバイはあと2回予定されています。5回目のフライバイは2024年12月、6回目は2025年1月に実施される予定です。
(参考記事)水星探査機「ベピコロンボ」、9月5日に水星フライバイ。水星到着は1年遅れに
(参照)ESA