2020年2月19日、日本の火星衛星探査計画(MMX:Martian Moons eXploration)の目標天体が火星の衛星フォボスに決定しました。MMXは、フォボスの表面に着陸して数時間滞在、10g以上のサンプルを採取して地球へ持ち帰る計画です。
これまでNASA(アメリカ航空宇宙局)を中心に、数多くの火星探査機が送られてきました。ただ火星圏から戻ってきた探査機は1つもありません。MMXは火星圏への往還を目指す世界初のミッションとなります。
火星には衛星が2つあります。内側を公転するフォボスと、外側を公転するダイモス(デイモス)です。どちらもいびつな形をした小さな天体で、フォボスの大きさは27×22×18km、ダイモスの大きさは15×12×11kmです。
MMXが目指すフォボスは、火星から9376kmのところを公転しています(ダイモスは2万3458km)。公転周期は約7時間39分で、1日に3回ほど火星のまわりを1周します。フォボスに大気はなく、表面温度は-4度C〜-112度Cまで昼夜で大きく変化します。
フォボスは100年間ごとに1.8mずつ火星に近づいています。このままいくと5000万年後には火星に衝突するか、火星の潮汐力によって壊れて火星をまわるリングになるとみられています。
フォボスやダイモスの起源については、主に2つの説があります。もともと他の場所に存在していた小惑星が、火星の重力につかまって衛星になったとする「捕獲説」と、かつて火星で起きた天体衝突によって火星のまわりに散らばった破片が再集積して衛星になったとする「巨大衝突説」です。MMXでは、サンプルを持ち帰って分析することで、衛星の起源についての論争に決着をつけることが大きな目的の1つとなっています。
また、火星に天体が衝突すると、火星表面の物質が吹き飛ばされてその一部がフォボスとダイモスまで到達して降り積もります。火星から飛来する物質は、内側を公転するフォボスの方が、ダイモスに比べて2桁以上豊富に存在すると推定されています。火星への天体衝突は、過去のさまざまな時代に起きています。つまりさまざまな時代の火星の物質が、フォボスには降り積もっているのです。フォボスのサンプルを採取することで、過去の火星の情報を分析することも可能になると考えられています。
MMXでは火星への往路、復路ともに1年弱かけて飛行、フォボスの観測などの期間も含めて約5年間のミッションが予定されています。2024年に打ち上げられ、2029年9月に地球へ帰還予定です。
冒頭の画像はNASAの火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターが撮影した火星の衛星フォボス。右側に見える「スティクニー・クレーター」は直径9kmもある、フォボス全体のサイズに対して非常に大きなクレーターです。Image Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
【参考】
火星衛星探査計画(MMX)プロジェクト移行審査の結果について(PDF)