氷が作った火星の南極の地形 マーズ・エクスプレスが撮影

この画像は、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査機マーズ・エクスプレスが、火星の南極域にある「Australe Scopuli」と呼ばれる地域をとらえたものです。

火星の季節的な極冠は、二酸化炭素の氷(ドライアイス)と水の氷で構成されています。春になると氷が昇華して大気中にガスが放出され、秋から冬にかけて蒸気が凝縮して極冠が成長します。冬の間には緯度55度付近まで極冠が広がることもあります。

昇華と凝縮が毎年繰り返されることで、さまざまな地形が作られます。火星の南極地域をとらえたこの画像は、火星の南半球の春にあたる2024年4月2日に撮影されました。

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堆積層、多角形パターン、扇形の堆積物

画像左から中央下にかけて、露出した堆積層が明るく見えています。それは、さまざまな量の塵を閉じ込めた氷の層です。画像右側の滑らかな部分は、層状堆積物の表層部分が見えている領域です。

画像の中央付近には暗い領域が広がっています。そこは大小さまざまな多角形のパターンで覆われています。それぞれの多角形は谷や尾根で区切られ、谷には明るい霜が存在することがあります。地球では、そのような多角形のパターンは、北極や南極で周氷河地形として見られます。周氷河地形とは、地中に含まれる水分が凍ったり融けたりを繰り返すことでできる地形のことです。

また、画像のあちらこちらで、明るかったり暗かったりする扇形の堆積物が見られます。それらは卓越風の方向に、数十mから数百mも広がっています。

春になると、太陽光が半透明の二酸化炭素の氷の層を透過して地面を温めます。すると氷の底の部分が昇華してガスが閉じ込められます。しだいに圧力が高まると氷が割れてガスが噴き出し、そのとき暗い塵もいっしょに運ばれます。その塵が卓越風によって扇形に広がります。

氷の表面に広がった塵は、暗いのでまわりの氷より多くの太陽光を吸収して温まります。そのため塵の下の氷が昇華していき穴があいていきます。その後、下から新しい氷が露出するか、沈んだ塵の上に霜が新たに凝縮するなどして、明るい扇形になることがあります。

冒頭の画像に映る領域の一部を斜めから見たようにしたもの。左上に露出した堆積層、右側の暗い部分に明るい扇形のスポットが見られます。

Image Credit: ESA/DLR/FU Berlin

(参照)ESA