私たちのすむ天の川銀河には、さまざまな年齢の星があり、新しい星も誕生しています。一方で楕円銀河には、ほぼ同じ年齢の年老いた星が多く存在しており、星形成活動は起きていません。このことは、楕円銀河では過去に星形成が盛んだった時期があり、それが突然終了したことを示しています。星形成が終了した原因として、銀河中心にある超巨大ブラックホールが銀河のガスに影響し、星形成に適さない環境になった可能性が考えられています。
100億年以上前の宇宙では、ほとんどの銀河で星が活発に誕生していました。しかし近年、すばる望遠鏡などによる観測から、星形成を終えた銀河も少ないながら発見されています。そのような銀河は、現在の楕円銀河の祖先なのかもしれません。
総合研究大学院大学(研究当時)の伊藤慧氏らの研究チームは、星形成活動を終えた95億〜125億年前の5211個の銀河を、さまざまな波長で調べました。調べたのは「COSMOS」と呼ばれる探査領域にある銀河です。COSMOSはアルマ望遠鏡やすばる望遠鏡などで取得されたデータからなり、X線から可視光、赤外線、電波までの幅広い波長帯でのデータが含まれます。
研究チームはまず、可視光と赤外線のデータを使い、星形成が進行中の銀河と終了した銀河の2つのグループに分けました。しかしX線と電波については意味のある信号とノイズとの区別をつけることができませんでした。
そこで研究チームは、5211個の銀河を時代(距離)と、星の成分の質量(ダークマターとガスを除く)に分けた上で画像を重ね合わせ、X線と電波の平均的な画像を作成しました。平均化された画像により、95億〜125億年前の銀河においてX線と電波の放射が確認されたのです。とくに105億以上前の宇宙でこうした放射を検出したのは初めてとのことです。
解析の結果、X線と電波は銀河の星だけでは説明することができず、銀河中心の超巨大ブラックホールの活動による放射が主であると推測されました。また同時代で星形成が起きている銀河よりも、これらの銀河のブラックホールの活動性が高いこともわかりました。そのことから、遠方宇宙において、星形成活動が終わる原因と超巨大ブラックホールの活動性とが関連しているのではないかと研究チームは考えています。ただブラックホールがどうやって星形成を終わらせたのかは分かっておらず、研究チームではその具体的な過程を明らかにするべく今後も調査を続ける予定とのことです。
(参照)すばる望遠鏡