ウェッブ望遠鏡、120億年前の銀河で複雑な有機分子を発見

アメリカ、テキサスA&M大学のJustin Spilker氏やイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のKedar Phadke氏らの研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使った観測により、地球から120億光年離れた銀河で複雑な有機分子を検出したと発表しました。

検出されたのは「PAH(多環式芳香族炭化水素)」と呼ばれる有機分子です。地球では排気ガスや森林火災の煙の中などに存在します。今回観測された銀河は、PAHが見つかった銀河としては地球から最も遠くにある(最も古い時代の)銀河です。

宇宙ではPAHがある場所には通常、星が存在します。しかし今回観測された銀河では、PAHが豊富に存在しているのに星が形成されていない領域や、PAHがあまり存在しないのに星形成が活発な領域が多数見つかったとのことです。このことは、初期宇宙では従来の考えが当てはまらないことを示唆しています。

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ウェッブ望遠鏡と重力レンズの組み合わせで検出可能に

ウェッブ望遠鏡で観測された銀河「SPT0418-47」は、もともと2013年にNSF(アメリカ国立科学財団)の南極望遠鏡で発見されました。その後、アルマ望遠鏡やハッブル望遠鏡など、多くの望遠鏡で研究されてきました。

今回のPAHの検出には、「重力レンズ」が大きな役割を果たしました。重力レンズとは、手前側にある天体の重力によって奥にある天体からの光が曲がり、天体の像がゆがんだり拡大して見えたりする現象です。重力レンズによる拡大効果と、ウェッブ望遠鏡の性能とが相まって、PAHの検出が可能になったのです。

この画像はウェッブ望遠鏡が撮影したもので、擬似的に着色されています。青っぽく見えているのは地球から30億光年の距離にある銀河で、そのまわりに赤っぽいリングが見えています。これは120億光年離れた銀河の光が、30億光年先にある前景の銀河の重力レンズ効果によってリング状になったものです。このようなリング状に見える重力レンズ天体は「アインシュタイン・リング」と呼ばれており、2つの天体が直線上に並んだ場合にみられます。

Image Credit: J. Spilker/S. Doyle, NASA, ESA, CSA

(参照)Texas A&M TodayILLINOIS News Bureau