この画像は、世界最大規模のダークマター構造形成シミュレーションで得られた、現在の宇宙でのダークマターの分布です。
千葉大学の石山智明氏を中心とする国際研究グループは、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」の全能力を使ったシミュレーションを行い、世界最大規模の「模擬宇宙」を作ることに成功しました。このシミュレーションは「Uchuu」と名付けられています。
宇宙では太陽のような恒星が何千億も集まって銀河を作り、その銀河が何百も集まって銀河団を作っています。さらに銀河団が寄り集まって「宇宙の大規模構造」を形成しています。私たちの宇宙は、そのような階層構造をなしているのです。
また宇宙には電磁波で観測できる星や銀河などの天体のほかに、「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれる正体不明の物質が存在していると考えられています。ダークマターは重力のみがはたらく物質で、宇宙の質量の約8割を占めています。宇宙の歴史の中で、ダークマターが集まったところに星や銀河が形成されました。宇宙の階層構造の形成には、このダークマーターが重要な役割を果たしています。
宇宙が誕生した直後、物質は宇宙全体で均等に分布していたわけではなく、ごくわずかな密度のむら(密度ゆらぎ)がありました。密度がわずかに高いところは重力がわずかに強いため物質が集まっていき、やがて銀河などが誕生します。
宇宙の構造形成のシミュレーションでは、宇宙初期のダークマターの密度ゆらぎをたくさんの粒子で表現し、粒子どうしの間にはたらく重力を計算します。「Uchuu」ではダークマターを2.1兆もの粒子であらわし、それらに働く重力を計算して、ダークマターが作り出す模擬宇宙の構造を詳細に描き出しました。
全体で3ペタバイト(1ペタは10の15乗)及ぶ「Uchuu」のデータのうち、高性能計算技術を駆使して100テラバイト(1テラは10の12乗)程度まで圧縮したデータが、インターネットクラウド上に公開されています。それは模擬宇宙におけるダークマターの構造形成の情報に特化した基礎データです。
そのデータは今後、すばる望遠鏡などをはじめとする様々な大規模サーベイ観測データとの比較に用いられ、宇宙の大規模構造の進化や、銀河や超巨大ブラックホール形成の回目に向けた研究に、幅広く役立てられることが期待されているとのことです。
こちらはシミュレーションで形成した、一部の領域のダークマターの分布を可視化した動画です。動画の47秒までは、密度ゆらぎが重力で成長して構造が形成されていく様子が再現されています。それ以降は現在における構造をさまざまな角度から見せています。
今回のシミュレーションに使用された、天文学の数値計算専用機としては世界最速のスーパーコンピュータ「アテルイII」。国立天文台水沢キャンパス(岩手県奥州市)に設置されています。
以下の画像は、冒頭の画像に含まれる各画像です。