ユークリッド宇宙望遠鏡 銀河の精密な3Dマップを作り宇宙の「暗黒」の解明を目指す | アストロピクス

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ユークリッド宇宙望遠鏡 銀河の精密な3Dマップを作り宇宙の「暗黒」の解明を目指す

ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA. Background galaxies: NASA, ESA, and S. Beckwith (STScI) and the HUDF Team, CC BY-SA 3.0 IGO
ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA. Background galaxies: NASA, ESA, and S. Beckwith (STScI) and the HUDF Team, CC BY-SA 3.0 IGO

2023年7月1日(日本時間2日)、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のユークリッド宇宙望遠鏡が、アメリカのフロリダ州にあるケープカナベラル宇宙基地から、スペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられる予定です。

ユークリッドは100億光年の距離までの銀河の形状や位置、距離を測定し、これまでで最大かつ最も正確な宇宙の3次元マップを作成します。それによりダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)の謎に迫ります。

打ち上げられたユークリッドは、4週間ほどかけて地球から150万km離れた、太陽・地球系の第2ラグランジュ点(L2点)に向かいます。ユークリッドはL2点をまわる軌道に投入され、そこから観測を行います。打ち上げの3か月ほど後からサーベイが開始される予定です。メインミッションは6年間が予定されています。

なおL2点では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や位置天文衛星ガイアなども観測を行なっています。

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可視光と赤外線で数多くの銀河をサーベイ

ユークリッドの大きさは、高さが4.7m、幅が3.7mで、口径1.2mの望遠鏡を備えています。観測機器は、VIS(可視光カメラ)とNISP(近赤外線分光計および測光計)の2つ。大量のデータを保存するため、4テラビットの大容量メモリが搭載されています。

ユークリッドは、可視光で銀河の正確な位置と形状を測定、赤外線で銀河の赤方偏移を測定し、銀河までの距離を推定します。取得したデータから、銀河とダークマターの3次元マップを構築できます。そしてそれらの3次元マップによって、宇宙の大規模構造が時間とともにどのように進化してきたのかを解き明かし、ダークエネルギーの役割を追跡します。

ダークマターとダークエネルギーは、宇宙の質量とエネルギーの95%を占めると考えられています。銀河や星、惑星、生物などを構成する通常の物質(バリオン)は、宇宙のわずか5%に過ぎません。正体不明のダークエネルギーは、現在の宇宙の加速膨張を引き起こしていると見られています。ただその仕組みはわかっていません。

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「弱い重力レンズ」でダークマターをとらえる

銀河団などの巨大な質量によって、奥にある天体からの光が曲がり、天体の像が歪んだりすることがあります。このような現象は「重力レンズ」と呼ばれます。像の歪みなどがはっきりとわかるものは「強い重力レンズ」とも呼ばれます。

一方、手前にある質量が小さい場合、奥の天体の像はごくわずかしか歪みません。そのようなケースは「弱い重力レンズ」と呼ばれます。ただ弱い重力レンズの場合、私たちには元の銀河の形はわからないため、重力レンズによって歪んだのか、あるいは元からそのような形なのかを区別することができません。弱い重力レンズは、数多くの銀河を観測して統計的な手法で分析することで調べます。

電磁波では観測できないダークマターも、弱い重力レンズによって銀河の像をわずかに歪めます。ユークリッドは数多くの銀河の形状を観測することで、ダークマターの3次元的な分布をとらえることができます。そしてそのようなダークマターの3次元マップは、大規模構造の進化に影響を与えるダークエネルギーについても教えてくれます。

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銀河の分布から「バリオン音響振動」を探る

Credit: NASA's Goddard Space Flight Center

ユークリッドはまた、「バリオン音響振動」についても調べます。映像はバリオン音響振動のイメージです(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)。

ビッグバン直後の宇宙では陽子と電子がバラバラなプラズマ状態で、光は自由に飛び回る電子にぶつかるため直進できず、バリオンと光は渾然一体となって振る舞っていました。そのような状態のバリオンと光に圧力がはたらいて音波のように疎密波として伝わる振動(バリオン音響振動)が発生しました。バリオン音響振動は、水面に雨粒が落ちて生じた波紋のように周辺へ広がっていきました。

ビッグバン以降、宇宙の温度が徐々に下がっていき、約38万年後に十分に低温になると陽子が電子をつかまえて電気的に中性の原子ができます。それにより光は直進できるようになり、バリオンと光が一体の状態ではなくなります。光と切り離されたバリオンの波紋(密度の高い部分)は、その時点でほぼ静止します。そのとき、波紋は差し渡し約5億光年まで広がっていました。その後、静止した波紋に沿うように銀河が多く形成されます。

宇宙における銀河の分布には、バリオン音響振動の波紋のパターンが刻まれています。ユークリッドは、さまざまな距離における銀河の分布を測定して波紋のパターンを調べます。それにより時間の経過にもとなう宇宙の加速膨張を測定し、ダークエネルギーやダークマターの性質などに迫ります。

天の川や黄道光を避けた全天の3分の1を観測

青線で囲まれているのがワイドサーベイ、黄色の部分がディープサーベイの対象領域です。Image Credit: ESA/Gaia/DPAC; Euclid Consortium. Acknowledgment: Euclid Consortium Survey Group
青線で囲まれているのがワイドサーベイ、黄色の部分がディープサーベイの対象領域です。Image Credit: ESA/Gaia/DPAC; Euclid Consortium. Acknowledgment: Euclid Consortium Survey Group

ユークリッドは、空の3分の1の領域を観測します。残りの3分の2の領域は、天の川銀河の星々や星間物質、また黄道光のもとになる太陽系内の塵などが多いため、ユークリッドによる観測は行われません。

ユークリッドは主に2つのサーベイを行います。1つは宇宙の約1万5000平方度を観測する「ワイドサーベイ」、もう1つは約50平方度を観測する「ディープサーベイ」です。

ワイドサーベイでユークリッドは、0.57平方度の各領域を1回ずつ観測し、合計1万5000平方度を観測します。0.57平方度というと、だいたい満月の3倍の面積に相当します。

ディープサーベイでは北天1か所、南天2か所の合計約50平方度の領域を、ワイドサーベイより40〜53倍もの長時間にわたり観測を行います。なお1万5000平方度と比べると、約50平方度は非常に狭い範囲に思えるかもしれません。ただその面積は、過去30年以上の間にハッブル宇宙望遠鏡が観測した領域の合計とほぼ同じだとのことです。

(参照)ESAEuclid Consortium