天の川銀河で最大の恒星質量ブラックホールを発見 質量は太陽の33倍 | アストロピクス

天の川銀河で最大の恒星質量ブラックホールを発見 質量は太陽の33倍

画像はガイアのデータをもとに作成された天の川銀河の地図に、ガイアのデータをもとに発見された3つのブラックホールの位置をプロットしたもの。ガイアBH1はへびつかい座、ガイアBH2はケンタウルス座、BH3はわし座の方向で見つかりました。
画像はガイアのデータをもとに作成された天の川銀河の地図に、ガイアのデータをもとに発見された3つのブラックホールの位置をプロットしたもの。ガイアBH1はへびつかい座、ガイアBH2はケンタウルス座、BH3はわし座の方向で見つかりました。

これまで天の川銀河で発見された中で、最も重い恒星質量ブラックホールが発見されました。そのブラックホールは、わし座の方向、1926光年の距離にあり、質量は太陽の約33倍あります。ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の位置天文衛星ガイア(Gaia)のデータから発見されました。ガイアは天の川銀河の精密な3次元マップを作ることを目的とした衛星で、星の運動や明るさ、温度、組成などをマッピングします。

ブラックホール自体は光(電磁波)を発しません。ただ近くにある伴星からブラックホールにガスが落ち込む際に非常に高温になりX線が出ます。これまで発見された恒星質量ブラックホールの多くは、そのX線を観測することで発見されたものです。

ただ今回、ガイア衛星のデータから発見されたブラックホールは、そのようなX線を放射していません。いわば「休眠」状態のブラックホールです。ただ、もしブラックホールが別の星(伴星)と連星系を作っていれば、ブラックホールの重力が伴星の動きに影響を与えます。

今回、地球から1926光年の距離にある古い巨星の動きを分析することで、ブラックホールが発見されました。発見されたブラックホールは、ガイア衛星によって発見された3個目のブラックホールであることから「ガイアBH3」と名付けられました。ガイアBH3は地球から2番目に近いブラックホールになります。地球に最も近いブラックホールは、同じくガイアのデータから発見された「ガイアBH1」で、地球から約1600光年の距離にあります。なおガイア衛星によってこれまで発見された2個のブラックホールも休眠中のものでした。

この映像は、ガイアBH1、BH2、BH3でのブラックホールと伴星の軌道と運動を示したものです。いずれも共通重心のまわりを、ブラックホールと伴星が周回しています。ガイアBH3の軌道には、距離の比較のために太陽系の惑星の軌道が重ねられています。ガイアBH3と伴星は11.6年で周回しています。Credits: ESA/Gaia/DPAC

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ガイアBH3は重元素の少ない星が爆発して形成されたか

太陽の33倍もの巨大な質量を持つ恒星質量ブラックホールは、重力波の観測から遠い銀河で検出されたことはありますが、天の川銀河で発見されたのは初めてです。天の川銀河で見つかった恒星質量ブラックホールの質量は、平均すると太陽質量の10倍程度。これまで最も質量が大きかったのは、はくちょう座X-1のX線連星にあるブラックホールで、太陽質量の約21倍でした。

大質量星は年老いてくると、星の物質のかなりの部分が星風によって放出されると考えられています。ブラックホールは超新星爆発の後で形成されますが、爆発の際にも多くの物質が宇宙へ飛び散ります。そのため太陽質量の約30倍のブラックホールの形成を説明するのは困難とされています。ただガイアBH3の場合、伴星がその謎を解くヒントが隠されているかもしれません。

ガイアBH3の伴星は宇宙誕生20億年後ころに誕生した古い星です。銀河円盤とは別の方向に運動しており、その軌道から、80億年以上前に天の川銀河に飲み込まれた別の小さな銀河か球状星団の一部であったとみられています。そしてこの伴星には重い元素がほとんど含まれていません。このことはガイアBH3にも重元素がほとんどなかった可能性があることを示しています。重元素が少ない星は、生涯を通じて失う物質が少ないため、大きな質量のブラックホールを形成するための物質がより多く残されると考えられています。

(参考記事)
(ガイアBH1について)地球から最も近いブラックホールを発見
(ガイアBH2について)伴星の「ふらつき」から地球に近いブラックホールを発見

Image Credit: ESA/Gaia/DPAC

(参照)ESA