月の極地方では太陽高度が低く、クレーターの内部で太陽光が恒久的に当たらない場所があります。過去の探査から、そのような永久影の領域には水素が豊富に含まれていることが分かっており、水の氷の存在が強く示唆されています。上の画像は、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の探査機SMART-1が月の南極付近を撮影した画像です。中央左にあるやや小さなクレーターがシャックルトン・クレーターで、その縁に南極点があります。
水の氷は科学的な意義はもちろんのこと、将来的に人類が月に行った際に、呼吸のための酸素やロケットの燃料となる水素などの供給源、飲料水などとしても重要です。ただ、ほんとうに水の氷があるかどうかを確かめるには、クレーター内の永久影の中に、探査車(ローバー)を送り込んで探査する必要があります。
日光の届かない永久影での作業になりますから、探査車は太陽エネルギーに頼らずに動作しなければなりません。そこでESAでは、レーザー光を使って着陸船から探査車に電力を供給するシステムを検討してきました。
ESAのPHILIPプロジェクトでは、最大15kmまで離れた場所からの電力供給を検討しています。探査車は標準的な太陽電池パネルを改良したものを使ってレーザー光を受け取って電力に変換します。太陽電池パネルは、センチメートル単位の精度でレーザー光を受け取ります。探査車から着陸船へ反射した光を使って通信することができます。
ESAのロボット工学エンジニアのMichel Van Winnendael氏は、PHILIPプロジェクトが完了したことで、レーザーで電力供給を行う探査車の実現に一歩近づいたと言います。現在は、試作品の製作とテストをスタートする段階にあるとのことです。