地球軌道の内側に潜む地球近傍小惑星を新たに発見 | アストロピクス

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地球軌道の内側に潜む地球近傍小惑星を新たに発見

地球の公転軌道よりも太陽に近づく小惑星の想像図。Image Credit: DOE/FNAL/DECam/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine
地球の公転軌道よりも太陽に近づく小惑星の想像図。Image Credit: DOE/FNAL/DECam/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine

地球の公転軌道よりも内側に潜んでいた地球近傍小惑星(NEA)を新たに3つ発見したとする研究が発表されました。2つは地球軌道より完全に内側にある小惑星です。もう1つの小惑星「2022 AP7」は、ここ8年間で見つかった中で潜在的に最も危険な小惑星と見られています。

3つの小惑星は、南米チリ、セロ・トロロ汎米天文台(CTIO)にあるビクター・M・ブランコ4m望遠鏡に搭載されたダークエネルギー・カメラ(DECam)の観測から発見されました。

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完全に地球軌道の内側にある2つの惑星

今回発見された小惑星のうち「2021 LJ4」と「2021 PH27」は「アティラ群」と呼ばれるタイプの小惑星です。NEAのうち、軌道長半径(楕円の長軸の半分の長さ)が1天文単位以下で、遠日点が地球の近日点(0.983天文単位)より内側にある小惑星を「アティラ群」と呼びます。

アティラ群小惑星のように地球より内側の小天体は、地球から見ると太陽に近く太陽の明るさに紛れてしまうため発見が困難です。そのため完全に地球軌道よりも内側にあり軌道がよく決定されている小惑星はこれまで25個程度しか見つかっていません。

2021 PH27の軌道(白)。色付きの軌道は内側から水星(マゼンタ)、金星(紫)、地球(シアン)、火星(赤)。JPL Solar System Dynamicsより
2021 PH27の軌道(白)。色付きの軌道は内側から水星(マゼンタ)、金星(紫)、地球(シアン)、火星(赤)。JPL Solar System Dynamicsより

2021 PH27の直径は0.9〜1.7kmと推定されています。2021 PH27の軌道長半径は0.462でこれまで知られている小惑星の中で最も短く、軌道周期は約113日です。公転軌道は細長い楕円で、水星と金星の公転軌道を横切りながら約0.133天文単位まで太陽に近づく一方、0.79天文単位まで遠ざかります。太陽に最接近する際には、表面温度が500℃に達します。また太陽系の天体の中で、一般相対性理論の影響を最も大きく受けることになるとのことです。

2021 LJ4の軌道(白)。色付きの軌道は内側から水星(マゼンタ)、金星(紫)、地球(シアン)、火星(赤)。JPL Solar System Dynamicsより
2021 LJ4の軌道(白)。色付きの軌道は内側から水星(マゼンタ)、金星(紫)、地球(シアン)、火星(赤)。JPL Solar System Dynamicsより

もう1つの2021 LJ4は、直径が0.3〜0.6kmと推定されています。軌道長半径は0.675天文単位、近日点(太陽に最も近づく点)は0.416天文単位、遠日点(太陽から最も遠ざかる点)は0.933天文単位です。

地球より内側にある小惑星を観測できるチャンスは夜明け前と日没後の1日2回、10分程度の短い時間しか観測できないうえ、薄明の空の中で探す必要があります。また地平線に近い空を探すため、たとえば天頂方向などと比べると天体の光が地球大気の中を通る距離が長くなり、像がぼやけたりゆがんだりする可能性があります。

なお、ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のような宇宙望遠鏡であれば大気の影響は受けません。しかし太陽の強烈な光と熱により故障する可能性があるため、それらの宇宙望遠鏡は基本的に太陽方向に向けられることはありません。

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地球に危険をもたらしうる小惑星も発見された

2022 AP7の軌道(白)。色付きの軌道は内側から水星(マゼンタ)、金星(紫)、地球(シアン)、火星(赤)、木星(オレンジ)土星(黄)。JPL Solar System Dynamicsより
2022 AP7の軌道(白)。色付きの軌道は内側から水星(マゼンタ)、金星(紫)、地球(シアン)、火星(赤)、木星(オレンジ)土星(黄)。JPL Solar System Dynamicsより

もう1つの小惑星2022 AP7は、直径1.1〜2.3kmで地球の軌道を横切る小惑星です。ここ8年間で発見されたものの中で、地球に危険をもたらす可能性のある天体としては最大のものとのことです。

2022 AP7の軌道長半径は2.924天文単位。近日点は0.833天文単位で地球軌道の内側に入り、遠日点は5.015天文単位で木星付近に達します。約5年で太陽を公転しています。

2022 AP7と地球の軌道周期の関係で、衝(太陽に対して地球と2022 AP7が同じ方向にある状態)のときには両者の距離が遠いため2022 AP7は暗く見えます。2022 AP7は近日点付近にいる頃が最も明るくなりますが、そのとき地球は2022 AP7とは太陽の反対側にあって離角が小さくなります。そのため2022 AP7を効率的に観測できるのは薄明時となります。

今回の発見は、広い視野と高感度をあわせもつDECamにより実現しました。研究チームの1人であるカーネギー研究所地球惑星研究所のScott S. Sheppard氏は「私たちのDECamサーベイは、地球軌道より内側で金星軌道に近い天体の探査としては最大かつ最も高感度のものの1つです」と語っています。

このような観測は、地球に衝突する可能性がある小惑星を検出するだけでなく、太陽系における小天体の分布を理解するためにも重要とのことです。

Image Credit: DOE/FNAL/DECam/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine

(参照)NOIRLab論文