天の川銀河をはじめ、ほとんどの銀河の中心には巨大ブラックホールが存在すると考えられています。天の川銀河の中心にあるブラックホールは太陽の400万倍の質量があり、他の銀河で重いものでは太陽の100億倍に達するものもあります。
巨大ブラックホールの起源の1つとして、巨大ガス雲が一気に収縮して太陽の10万〜100万倍の質量を持つ星が形成される過程が注目されています。そのような巨大な星が最期にブラックホールとなり、その後周囲のガスを取り込んで巨大ブラックホールへと成長していくとみられています。
これまでの理論では、ビッグバン直後の水素やヘリウムなど軽い元素からなるガスからは、そのような巨大な星が生まれうることが分かっていました。しかしもっと後の時代、超新星爆発などによって撒き散らされた炭素や酸素などの重元素が含まれるガスは激しく分裂してしまい、単一の巨大星を作ることは難しいと考えられていました。しかし軽い元素のガスから生まれる星だけでは、観測されている全ての巨大ブラックホールの起源を説明できないのです。
ところが今回、東北大学大学院理学研究科の鄭昇明研究員と大向一行教授は、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を使って大規模な数値シミュレーションを行い、重元素が含まれるガスからも巨大星が生まれうること見出しました。
研究によると、ガス雲は激しく分裂しますが、ガス雲の中心へ激しいガスの流れが存在するため、ガス雲の中心付近で巨大星が誕生します。さらに、ガス雲の分裂で多くの小さな星が生まれるものの、それらの多くはガス雲の中心への流れに巻き込まれて中心付近の巨大星と衝突・合体します。そのようにして巨大星が効率よく成長し、太陽の1万倍の質量を持つ巨大な星の形成が可能であることが分かったのです。
こちらはシミュレーションの映像です。黒い点はやがてブラックホールに進化すると考えられる巨大星をあらわしています。白い点は、ガスの分裂で形成された質量の小さな星をあらわしています(冒頭の画像も同様)。小さな星の多くは、ガスの流れに乗って巨大星に衝突・合体しています。(Credit: Sunmyon Chon)
「重元素を含むガス雲からこれほど大きいブラックホールの種の形成を示したのは、本研究が初めてです。この巨大星はさらに成長を続けることで、巨大ブラックホールに進化すると考えています」と鄭研究員はいいます。
また大向教授は、研究の意義を次のように語ります。「我々が発見したモデルは、すでに重元素がまき散らされた宇宙初期の銀河においても巨大ブラックホールを形成することができ、従来モデルに比べてはるかに多い数のブラックホールの起源を説明することが可能です。銀河系中心のブラックホールを含む巨大ブラックホールの普遍的な起源の解明に近づいたと考えています」