ハッブル宇宙望遠鏡は1990年4月24日に打ち上げられました。2020年4月で、打ち上げから30周年になります。その間、数々の素晴らしい画像を私たちに届けてくれており、アストロピクスでもこれまで多くの画像を紹介してきました(これからも紹介していきます)。
ここでは、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げまでの経緯や、打ち上げ後にスペースシャトルで行われた保守ミッション(サービスミッション:SM)などについて簡単に紹介します。
待ちに待った打ち上げ直後に主鏡の不具合が判明
冒頭で書いたように、ハッブル宇宙望遠鏡は1990年4月に打ち上げられました。ただハッブル宇宙望遠鏡は、もともと1983年12月に打ち上げられる予定でした。しかし開発が遅れたため打ち上げは1986年後半に変更されます。そしてこのことが、さらなる遅れにつながることになりました。
望遠鏡自体は1985年までに組み立てられ、打ち上げの準備も整っていました。しかし1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げ時に爆発事故を起こしてしまいます。スペースシャトルは2年半以上飛行を中断、スペースシャトルで打ち上げられる予定だったハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げも延期されてしまったのです。
打ち上げを待つ間、太陽電池パネルを改善したり、コンピューターや通信システムをアップグレードしたりなどが行われました。スペースシャトルの打ち上げ再開は1988年9月29日。その約1年半後の1990年4月24日、ハッブル宇宙望遠鏡はついに打ち上げられたのです。
打ち上げられて喜んだのもつかの間、望遠鏡に搭載した主鏡がほんの少しだけゆがんでいるために画像がピンボケしてしまっていることが判明します。
スペースシャトルによる保守ミッションで主鏡の不具合を解消
ハッブル宇宙望遠鏡は、スペースシャトルの宇宙飛行士の船外活動によって観測装置やその他の機器を交換することができるように設計されていました。1993年から2009年まで、スペースシャトルによる保守ミッション(サービスミッション:SM)が5回行われました。
1回目の保守ミッション(SM1)は、1993年12月に行われました。SM1では、打ち上げ当初に搭載されていたカメラ「WFPC(広域惑星カメラ)」を、第2世代のカメラ「WFPC2(広域惑星カメラ2)」に交換しました。WFPC2には、主鏡の不具合を補正するメカニズムが組み込まれていました。SM1ではまた、その他の観測装置の不具合を“メガネ”のように補正する「COSTAR」という装置も設置されました。なお、現在搭載されている観測装置にはすべて補正するメカニズムが組み込まれており、COSTARは取り外されています。SM1では観測装置以外にも、太陽電池パネルなどのハードウェアの交換も行われました。
2回目の保守ミッション(SM2)は1997年2月に行われました。SM2では、劣化した部品の交換が行われたほか、NICMOS(近赤外カメラ/多天体分光器)やSTIS(宇宙望遠鏡撮像分光器)などの新しい観測装置が設置されました。
ハッブル宇宙望遠鏡には、姿勢制御のためのジャイロスコープが6基搭載されています。科学観測を行うには最低3基のジャイロスコープが必要ですが、1999年11月に4基目のジャイロスコープが故障し、ハッブル宇宙望遠鏡は観測を行えない状態になってしまいました。
3回目の保守ミッション(SM3)はもともと、2000年6月に行われる予定になっていました。しかし4基目のジャイロスコープの故障を受けてSM3はSM3AとSM3Bに2分割され、1999年12月にSM3Aが前倒しして行われることになりました。SM3Aですべてのジャイロスコープが交換され、ハッブル宇宙望遠鏡は観測を再開することができたのです。SM3Aではまた、より高速で強力なコンピューターの設置なども行われました。
SM3のもう一つのミッション、SM3Bが行われたのは2002年3月でした。ACS(掃天観測用高性能カメラ)の設置等が行われました。
最後の保守ミッションから10年以上が経過
2003年2月、スペースシャトル・コロンビア号の地上への帰還時に空中分解事故が発生しました。スペースシャトルの飛行が再開されたのは2005年7月のことです。その間に、2006年に予定されていた保守ミッション(SM4)は中止の決定が下されました。ただし決定はその後くつがえされ、2009年5月にSM4が行われることになります。
SM4ではWFC3(広視野カメラ3)の設置のほか、故障したACSやSTISの修理などが行われました。またバッテリーやジャイロスコープなどの交換も行われました。
10年以上前に行われたSM4が、ハッブル宇宙望遠鏡の最後の保守ミッションになりました。スペースシャトルが2011年7月に行われた飛行を最後に退役したためです。NASA(アメリカ航空宇宙局)では、ハッブル宇宙望遠鏡を地上へ持ち帰って博物館に展示することも検討していましたが、ハッブル宇宙望遠鏡はスペースシャトルでの運搬を前提に設計されていたので、スペースシャトルが退役した今となっては持ち帰る手段がなくなってしまいました。
現在は、技術者と科学者による専任チームが、ハッブル宇宙望遠鏡をできるだけ長く運用できるように継続的に取り組んでいます。たとえばジャイロスコープが1基のみでも科学観測が続けられる手法を見つけるなどがなされています。
(参考)『ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた驚異の大宇宙【第5版】』(電子書籍)(ブックブライト)