超高速で銀河間空間を移動する超大質量ブラックホールが残した、新たに形成された星々からなる20万光年もの長さの「飛行機雲」が見つかりました。
画像はハッブル宇宙望遠鏡が撮影したもので、白枠内に長いすじ状の光が映っています。この光のすじは、まるで空を飛ぶ飛行機が残す飛行機雲のように、太陽の2000万倍の質量をもつ超大質量ブラックホールが時速640万kmほどのスピードで通り過ぎた航跡にあるガスが冷え、星々が形成されて輝いているものとみられています。
アメリカのイェール大学などの研究チームは、近くの矮小銀河で球状星団を探していた際に偶然この光のすじを発見、その後、ケック天文台で追跡観測を行いました。その結果、20万光年の長さの光のすじが、約76億光年先のコンパクトな銀河から伸びていることが判明しました。明るさが銀河の半分ほどであることから、かなりの量の新しい星が存在しているはずです。
光のすじの先端部分はやや明るくなっており、ブラックホールがガスに衝突して加熱されているか、ブラックホール周辺の降着円盤からの放射である可能性があると考えられています。
超大質量ブラックホールはどのように「逃走」し始めたのか
銀河間空間を移動する超大質量ブラックホールは、複数のブラックホールの相互作用によって銀河から弾き出されたとみられています。研究チームが考えるシナリオは次のようになっています。
5000万年ほど前に、まず2つの銀河が合体し、それぞれの銀河の超大質量ブラックホールが二重ブラックホールとして互いの周りを公転するようになりました。その後、別の3つ目の銀河が合体し、その中心にあったブラックホールも加わって3つのブラックホールが相互作用した結果、1つのブラックホールが弾き出されました。元の二重ブラックホールが残っているか、あるいは後から加わったブラックホールが二重ブラックホールの1つを追い出して置き換わった可能性があります。
1つのブラックホールが飛び出したとき、残りの二重ブラックホールが反対方向へ飛び出したのではないかと考えられています。データにもその痕跡がみられ、また銀河の中心部に活動中のブラックホールが残っている兆候がないことも状況証拠として挙げられています。
研究チームは、今回の発見が実際に逃走ブラックホールなのかを確認するべく、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やチャンドラX線望遠鏡などで追跡観測を行おうとしています。また現在開発が進められているナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡のサーベイ観測により、逃走ブラックホールによる「飛行機雲」をもっと発見できるのではないかと期待しています。
Main Image Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Pieter van Dokkum (Yale); IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI)