NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星ヘリコプター「インジェニュイティ」は2021年12月5日、17回目となる飛行を行いました。今回の飛行では、離陸地点から北東方向へ187メートル飛行しました。飛行の最終段階で着陸地点へ降下している途中、探査車パーサヴィアランスとの無線通信リンクが切れるという事態が発生しました。
インジェニュイティは、火星表面から10メートルの高さで117秒間飛行しました。冒頭の画像で、黄色い直線がインジェニュイティの飛行経路です。その間、機体は正常に動作していました。ヘリからのデータが途切れたのは、着陸地点に降下時の高度3メートルのところでした。
パーサヴィアランスとインジェニュイティとの間の通信は、両者の間の地形やパーサヴィアランスの構成要素などにより遮られることがあります。
今回の飛行では、探査車のアンテナ(火星ヘリ用の基地局)と火星ヘリとの間に、探査車のMMRTG(multi-mission radioisotope thermoelectric generator、いわゆる原子力電池)がありました。さらに火星ヘリの着陸地点と探査車との間には、パーサヴィアランスの科学チームが「Bras」と呼んでいる高さ4メートルの丘がありました。飛行中の高度は10メートルだったので問題ありませんでしたが、着陸地点からは探査車とヘリコプター間の見通しが遮られることになったのです。
冒頭の画像では、インジェニュイティの着陸地点とパーサヴィアランスとの間に青い直線が引かれています。下側の図は、その青い直線に沿って地表の起伏を示したものです。パーサヴィアランスから100メートルほどのところが最も高くなっていることが分かります。
17回目の飛行時、パーサヴィアランスは当初の計画時に想定していた場所とは異なる場所に移動し、無線通信が難しい方向を向いて駐機していたとのことです。パーサヴィアランスの予定は、科学的成果を最大にするために日々変化しているからです。
ただ火星ヘリのチームではチャレンジングな飛行の性質上、飛行試験を開始して以来、着陸時に通信が途切れる可能性はあると見ていたとのことです。そのような状況に対応するためインジェニュイティは、飛行終了後には自動的に電源を落として後日の指示を待つように設計されており、今回もそのようになっていると見られています。
通信が途切れるまで予定通りだったこと、また着陸したとみられる時刻の15分後に受信した情報によればバッテリーが充電されていたことなどから、インジェニュイティのチームは17回目の飛行が成功したと考えています。ヘリコプターが直立した状態でなければできないレベルで充電が行われていたからです。
今後、未受信のデータを受け取り、最終的な健全性評価を行う予定とのこと。さらに2週間以内には18回目の飛行を予定しているとのことです。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech