観測史上、最も遠くにある銀河の候補が発見されました。その天体「HD1」は135億光年彼方に存在している可能性があります。東京大学の播金優一氏、早稲田大学の井上昭雄氏らのチームによる研究成果です。
この画像はESO(ヨーロッパ南天天文台)のVISTA望遠鏡のデータから作られた擬似カラー画像です。白枠内で赤く見えている天体が、最遠の銀河候補であるHD1です。
研究チームは、すばる望遠鏡やVISTA望遠鏡、UK赤外線望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡などによる70万個以上の天体のデータから、135億年前の天体の予想される特徴をもつ天体を探索したところ、HD1が発見されました。その後、アルマ望遠鏡を用いて分光観測を行い、酸素輝線が予想される周波数で弱いシグナルが見つかりました。このシグナルが本物であればHD1は135億光年彼方に存在していることになるといいます。ただシグナルの有意度は99.99%で、99.9999%の有意度がなければ確証はもてないとのことです。
宇宙は138億年前に誕生したと考えられており、HD1が135億年前の天体だとすると、宇宙が誕生してからわずか3億年後の天体ということになります。HD1は非常に明るく、このことはHD1のような明るい天体が3億歳の宇宙にすでに存在していたことを示唆しています。情報が限られていることからHD1の性質は不明な点が多く、活発な星形成をしている銀河だという考えがある一方で、活動的なブラックホールだとする説もあります。
これまで見つかっていた最も遠方の天体は、ハッブル宇宙望遠鏡によって発見された134億光年彼方の銀河「GN-z11」でした。HD1の距離が正しければ、GN-z11よりもさらに1億光年遠い天体ということになります。HD1は、2021年末に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の第1期観測のターゲットになっています。JWSTの近赤外分光器NIRSpecでの分光観測が予定されており、それにより正確な距離が確認されるかどうか注目です。