スイスのチューリッヒ工科大学や名古屋大学などからなる国際研究チームは、クエーサーのスペクトルと、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による銀河探査を組み合わせ、「宇宙の再電離」の現場を世界で初めて直接観測することに成功したと発表しました。
ビッグバン後に中性になった宇宙は再び電離した
ビッグバンの直後の宇宙は、陽子と電子が電離したプラズマの状態でした。宇宙が膨張するとともに温度が下がり、ビッグバンから約38万年後になると陽子が電子をとらえて水素原子となり、宇宙は主に電気的に中性の水素ガスで満たされていました。
一方、現在の宇宙における銀河間のガスはほぼ電離しています。中性ガスがふたたび電離する「宇宙の再電離」が、ビッグバンの約1億5000万年後から10億年後の間に起きたことは知られていましたが、どのようにして生じたのか、はっきりしたことはわかっていませんでした。宇宙の再電離は、そのころ新たに生まれた星々からの紫外線が原因と見られていますが、クエーサーからの放射によるとする説のほか、粒子崩壊など「新しい物理」の可能性も指摘されていました。
宇宙の再電離を引き起こしたのは一般的な銀河だった
この画像はクエーサーJ0100+2802付近をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がNIRCam(近赤外線カメラ)で撮影したものです。画像中央に回折スパイクを伴ったJ0100+2802が映っています。
研究チームは、クエーサーJ0100+2802のスペクトルと、クエーサー周辺の領域にあるビッグバンから約7億5000万年〜11億年後の117個の銀河のデータを分析。宇宙年齢9億5000万年ごろには、銀河のまわりに半径250万光年程度の泡状の電離領域が形成されていることを示しました。さらに1億年ほどが経過すると、それぞれの電離領域が拡がって重なり合うことで宇宙全体が電離されることを示しました。
このことは、宇宙年齢9億5000万年ごろの泡状の領域は、約250万光年以内にある銀河からの放射の影響によって生成されていることを示しています。また宇宙の再電離を引き起こしたのが当時の一般的な銀河であり、数の少ないクエーサーや「新しい物理」の可能性ではないことを強く示唆しているとのことです。
こちらに映っているのは、クエーサーJ0100+2802付近の遠方銀河のサンプルの一部です。
これらの銀河については、重元素の濃度が低く、また電離光子(電離を起こすことができるほどエネルギーの高い光子)の生成効率が高いことがわかりました。銀河のこのような性質は、初期の時期の銀河は一般にガスが豊富で、超新星爆発で大量の重元素を生成する時間がなかったことを反映しています。また電離光子の生成効率が高いため、若い銀河が宇宙を再電離するのに非常に有効な源となるとのことです。
観測は「EIGER計画」の一環で行われた
今回の研究は、「EIGER(Emission-line galaxies and Intergalactic Gas in the Epoch of Reionization)計画」というジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた大規模な深宇宙探査プロジェクトの一環で行われました。EIGER計画は、宇宙の再電離の後期に相当する、ビッグバン後約7億5000万年〜11億年のころの銀河を検出し、その赤方偏移(距離)を測定することを目的としたプロジェクトです。
EIGER計画では、宇宙の再電離の後期における銀河と銀河間ガスの相互作用を研究するため、赤方偏移範囲6.0<z<7.1に存在するクエーサーの方向にある6つの領域が観測対象となっています。今回の研究に登場するクエーサーJ0100+2802は、その6つクエーサーの中の1つです。